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その日、私は同期の壮馬とランチをしていた。というのも、今日も店舗に本部の調査が入ったからだ。
本社に近い私の店舗は、何かするのによく実験店舗として扱われる。
顧客満足度調査と題して、壮馬の部署の人たちがよく訪れるのだ。
“本部の人間は店舗に来たら、店長とランチ休憩”という謎の風習のせいで、こうして彼とカフェに来たのだが、そうすると当然のように壮馬が壱月とのことの続きを聞いてくる。
隠すこともないので、私は同居から今に至るまでを、壮馬に洗いざらい話した。
「つまり、そのパイロットの彼は愛音が好きだった、と」
「うん、そう」
「なんか、すごいことになってきたね」
「本当。……正直、どうしていいか分からない」
「そっか……」
壮馬は困ったように笑みを浮かべて、ランチのパスタを口へ運んだ。
私も、パスタを頬張る。けれど、味を感じない。
「でも、ある意味ロマンチックじゃん?」
「はぁ?」
「ずっと好きだった人が、実は自分をずっと好きだった。しかも、その人が実は子供の父親だった、なんて」
「そう?」
「うん、俺とは大違い」
壮馬は自嘲するように笑った。
私は相づちが打てなくて、曖昧な笑みを浮かべた。
「はは、気を遣われた」
「そういうつもりじゃ……」
「いいよ、気なんか遣わないで。俺の中では、もう終わったこと」
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