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終わったこと、と言うのは、私と付き合う前の、壮馬の恋の話。
彼女は、壮馬の上司。だが、それは誰にも言えない秘密の恋だった。
彼女は、既婚者だったのだ。
『妊娠したから、別れてほしい』
それが彼女の最後の言葉だったと、壮馬から聞いた。
彼女は今、長期育休中で、会社で顔を合わせてはいないらしい。
けれど、そのお子さんと花斗が同じ学年だということが、なんとも奇妙で変な気持ちになる。
壮馬と私が付き合いだしたのは、お互いが似ていることに気付いてしまったからだ。
恋に破れたはずなのに、酷いことをされたのに、なぜか相手を憎めない。
恋の傷を癒すのは新しい恋だと、誰かが言っていた。
だから、お互いの傷を舐め合うように、壮馬と付き合い始めたのだ。
付き合ったところで恋なんて始まらなかったのだから、私たちにはなんの意味もなかったのだが。
「花斗の父親のことは、言ったの?」
「ううん。でも気づいてると思う」
「言わないの?」
「今はまだ、言えない」
「どうして?」
壮馬は“意味がわからない”というように、私の顔をじっと見る。
耐えられなくて、私は視線を逸した。
「……彼を花斗の父親だって、認めたくないんだよね」
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