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その日、花斗を寝かせ一人皿洗いをしていた夜。
「ただいま~」
と、同居している姉が、幸せそうにニヤけながら帰宅した。
彼女の顔の周りには、幸せオーラが浮かんでいる。
「お姉、どうしたの? やけに嬉しそう」
「うふふ、聞いちゃう~?」
姉はバックをソファにどさっと置くと、自分もそこにどかっと腰かけた。
「あんまり大きい音出さないでよ、花斗が起きちゃう」
「ああ、そうだった!」
姉は小声でそう言うと、ちょいちょいと私に手招きする。仕方なく洗い物の手を止め、ソファに座った姉の隣に座った。
すると、こちらに身を乗り出した姉は前のめりで話し出す。
「ついに新居が見つかりました~!」
「ええ、おめでとう!」
姉は恋人の榎田龍翼さんと付き合い初めて五年。
今はすでに婚約者になった彼と共に暮らす愛の巣を探していたのだった。
「……おめでとうって、言ってくれるんだ」
先ほどまで幸せいっぱいの笑みを浮かべていた姉は、急に困ったように微笑む。
ああ、憎い。
幸せいっぱいの姉を、こんな顔にさせてしまう自分の存在が。
「ごめん……」
「わわ、愛音に謝らせたかった訳じゃないの! こっちこそ、ごめん……」
姉は顔の前でブンブン手を振って謝った。謝る必要なんて、ないのに。
「あー……引っ越しなんだけどさ、急がなくていいから! 私も引越は少しずつするつもりだし、この部屋の更新までまだ1ヶ月あるからそれまでは住んでいてくれて構わないし……」
姉は言いにくそうにしながら、言葉を紡ぐ。
私の口からは、ため息が漏れた。
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