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のんびり花斗と手を繋いで帰る。
マンションのエントランスについたところで、花斗は私の手を離して走り出した。
エントランスをくぐる壱月が見えたのだ。
「いつきー!」
「お、今帰りか」
「うん、ただいまー」
そんなやりとりをしながら、花斗はぴょんと壱月の足に飛び付く。
壱月はそれを受け止めながら脇を抱えて、だっこの体勢へ持っていく。
二人の笑顔が、近くで交わる。その光景を、遠目に眺めていた。
“好き”か……。
かつては、好きだった。
でも、今、その言葉を口にすれば、その先にあるのはきっと“家族”という未来。
私が母親で、壱月が父親。そんな家族の光景を、私は上手く思い描けない。
花斗は、私が育てた。
花斗の親は、私だ。
そんな思いが、“家族”という光景の中から壱月を排除していく。
「ママ~、早く~!」
その花斗の声にはっとした。
慌てて壱月の隣に並ぶと、壱月は困ったような笑みをこちらに向けた。
「お疲れ」
「ん、壱月も」
そんな短いやり取りも、何だかぎこちなくなってしまった。
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