9 好きっていう気持ち

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 のんびり花斗と手を繋いで帰る。  マンションのエントランスについたところで、花斗は私の手を離して走り出した。  エントランスをくぐる壱月が見えたのだ。 「いつきー!」 「お、今帰りか」 「うん、ただいまー」  そんなやりとりをしながら、花斗はぴょんと壱月の足に飛び付く。  壱月はそれを受け止めながら脇を抱えて、だっこの体勢へ持っていく。  二人の笑顔が、近くで交わる。その光景を、遠目に眺めていた。  “好き”か……。  かつては、好きだった。  でも、今、その言葉を口にすれば、その先にあるのはきっと“家族”という未来。  私が母親で、壱月が父親。そんな家族の光景を、私は上手く思い描けない。  花斗は、私が育てた。  花斗の親は、私だ。  そんな思いが、“家族”という光景の中から壱月を排除していく。 「ママ~、早く~!」  その花斗の声にはっとした。  慌てて壱月の隣に並ぶと、壱月は困ったような笑みをこちらに向けた。 「お疲れ」 「ん、壱月も」  そんな短いやり取りも、何だかぎこちなくなってしまった。
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