9 好きっていう気持ち

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「いつき、今日のご飯は?」 「今日は手巻き寿司です!」  帰宅後、大窓に張り付いた花斗を見守りながら持ち帰りの仕事をリビングでしていると、そんな会話が聞こえてきた。 「おすし?」 「そ。自分で巻くんだ」 「へえ……」  ふとダイニングに目を向ければ、桶のご飯を混ぜる壱月と、椅子の上に立ってそれに見入る花斗の姿。  視線に気付いたのか、壱月がこちらに顔を向けた。 「愛音、サーモン好きだったよな?」 「うん」 「……高校から変わんねーな」  私の返答に、壱月はふっと笑った。  このやり取り、どこかで……。  脳裏に浮かんだのは、一度目の再会を果たした時の、居酒屋での一幕。  確かあの時も、お刺身を頼んだ私に、壱月はそうやって私の好みを覚えていてくれた。  あの時、そんな些細なやりとりが無性に嬉しかったんだ。  だから、私は――。  モヤモヤと黒い感情が胸に現れて、私は慌ててふるふると首を振り、目の前の書類に視線を戻した。 「僕はイクラ好き~!」 「イクラも買ってあるぞ!」 「わーい!」  会話の中で感じる、花斗の素直さが羨ましい。  私も両手をあげて、思いっきりジャンプして喜べば、こんなモヤモヤなんてなかったことに出来るのだろうか。  壱月に慕われているらしい。  壱月は、私を喜ばせたいらしい。  それは伝わってくるのに、「この人に恋しちゃいけません」って心が止めにやってくる。  何が好きだったんだっけ?  どこが好きだったんだっけ?  ……好きって、どういう気持ちだったっけ?
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