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「はーなと、ママにおうち見せてよ」
「ヤダ」
床越しに聞こえる、くぐもった声。
仕方ない、強行突破だ!
私は花斗の脇に両手を入れると、そのままコチョコチョくすぐった。
「あは、あはは! ママ、ははっ、やめて!」
「おうち見せてくれたらやーめる」
「見せる! ははっ、見せる!」
くすぐるのをやめると、花斗はコロッと立ち上がりブロックの前で歩みを止める。
そして、自分で取り外してしまった屋根を修復すると、そのまま大窓に向かって逃げていってしまった。
これは、“勝手に見ろ”ということだ。
「なあ、愛音」
「ん? あー、気にしないで。花斗、恥ずかしかっただけだと思うから」
「いや、そうじゃなくて……」
笑みを向けたのに、壱月は目の前の作りかけの、ブロックのおうちを見つめていた。
「花斗って、もしかして……」
そう言って、二階部分らしき、緑と赤の2色で構成された部分に触れる。
「色弱?」
「あー、……気づいちゃった? まだ分かんないけどね、二歳だし」
そう、花斗は多分、色弱。
遺伝による染色体の異常で、見えている風景が私たちとは違うらしい。
保育園で「犬の色は緑だ」と言ったことを姉に聞いたのがきっかけで、眼科を受診した。
言葉の発達、色味への感性は様々だから、まだ確定はできないとしつつも、医者には色弱の可能性を示唆されている。
何を隠そう、私の父親が色弱だ。
「そっか……」
壱月は悔しそうに、ブロックのおうちの二階部分を撫でた。
「パイロットになりたい、か」
壱月はぽつりとそう呟いて、黙ってしまう。
私は残りの皿洗いをするため、何も言わずにその場を立った。
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