10 いたいのいたいのとんでいけ

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「はーなと、ママにおうち見せてよ」 「ヤダ」  床越しに聞こえる、くぐもった声。  仕方ない、強行突破だ!  私は花斗の脇に両手を入れると、そのままコチョコチョくすぐった。 「あは、あはは! ママ、ははっ、やめて!」 「おうち見せてくれたらやーめる」 「見せる! ははっ、見せる!」  くすぐるのをやめると、花斗はコロッと立ち上がりブロックの前で歩みを止める。  そして、自分で取り外してしまった屋根を修復すると、そのまま大窓に向かって逃げていってしまった。  これは、“勝手に見ろ”ということだ。 「なあ、愛音」 「ん? あー、気にしないで。花斗、恥ずかしかっただけだと思うから」 「いや、そうじゃなくて……」  笑みを向けたのに、壱月は目の前の作りかけの、ブロックのおうちを見つめていた。 「花斗って、もしかして……」  そう言って、二階部分らしき、緑と赤の2色で構成された部分に触れる。 「色弱?」 「あー、……気づいちゃった? まだ分かんないけどね、二歳だし」  そう、花斗は多分、色弱。  遺伝による染色体の異常で、見えている風景が私たちとは違うらしい。  保育園で「犬の色は緑だ」と言ったことを姉に聞いたのがきっかけで、眼科を受診した。  言葉の発達、色味への感性は様々だから、まだ確定はできないとしつつも、医者には色弱の可能性を示唆されている。  何を隠そう、私の父親が色弱だ。 「そっか……」  壱月は悔しそうに、ブロックのおうちの二階部分を撫でた。 「パイロットになりたい、か」  壱月はぽつりとそう呟いて、黙ってしまう。  私は残りの皿洗いをするため、何も言わずにその場を立った。
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