10 いたいのいたいのとんでいけ

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「だからね、」  花斗はそう言うと、私の胸にそっと自分の右手を当てる。 「いたいのいたいの、とんでいけ~」  その様子に、ふわんと気持ちが軽くなる。  何かがとんでいく代わりに、ほっと天使が舞い降りた感じ。  しゃんとしなきゃ、ね。 「ありがとう、花斗。もう大丈夫だよ」  そう言って頭をポンポン撫でると、花斗は照れ笑いを浮かべる。  だから、私も。 「花斗、じっとしてね〜」  そう言って、花斗の小さな胸に手を当てる。 「いたいのいたいの、とんでけ〜」  花斗ははっと目を見開いた。  そんな花斗に、微笑みかける。 「壱月も、胸が痛いんじゃないかなぁ。せっかく一緒にお家作ってたのに、あんなふうに壊されちゃったら、悲しいと思うよ?」  花斗はしばらく下を向いていたが、そのうち壱月の手を引いて、私の前に連れてきた。 「いつき、座って」 「は?」 「いいから」  そう言って、花斗は彼の胸にも手を当てる。  そして、「いたいのいたいのとんでいけ~」をすると、 「仲直り」  花斗はそう言って、自身の右手で壱月の右手をきゅっと握った。 「ママと、いつきも」 「え?」 「別に、喧嘩なんて……」 「いいの! なかよしの、しるし!」  今度は、私の右手と壱月のそれを花斗が無理矢理掴んで突き合わせる。  私がその手をぎゅっと握ると、壱月も握り返してきた。  ふと彼を見上げると、壱月は曖昧な笑顔のままこちらをじっと見つめる。  彼の瞳に映った私も、同じような顔をしていた。
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