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「はぁー……」
「壱月……」
「花斗がここで毎日飛行機見てんの、パイロットになるためだよなぁ……俺、無責任すぎる」
壱月は小さくなった背中で、深い溜め息と、後悔の言葉を溢した。
責任を感じているのだろう。
窓の外では、羽田空港に飛行機が一機戻ってくる。
「でも、親でいるって、そういうことだと思う」
私は空港の方を向いたまま言った。
「え?」
壱月は顔を上げた。
私は続ける。
「自分の人生だけじゃなくて、子供の人生にも責任を持つの。全部の言動に責任がついて回るの。子供の責任者だもん」
壱月がこちらを見たらしい。
私はその視線が恥ずかしくて、窓の方を向いたまま続けた。
「花斗に、いつかは事実を伝えなきゃいけないよ。パイロットにはなれませんって。でも、夢を見るのも子供の仕事。事実を伝えた時に、絶望させるんじゃなくて前を向かせるのが、親の仕事。たくさん悩んだけどさ、そうなんじゃないかなって、今は思ってる」
ちらりと横を見れば、壱月は視線を一度下げる。
けれど次の瞬間、壱月が顔を上げたから、目があってしまった。
その瞳が「愛音、すげぇ」と言っているようで、私は慌てておどけた。
「なーんて、その時が来てみないとどうなるか分かんないけどね!」
「愛音」
「ん?」
次の瞬間、壱月は私に頭を下げた。深く深く、その背を折り曲げて。
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