11 私の決意

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「ごめん。愛音の覚悟、まだまだ甘くみてた。昨日、あんなこと言ったくせに。俺、何にも分かってなかった」  そう言う壱月の背中は、何だかとても頼りない。  声も、とても弱々しい。  きっと、彼は今、泣いている。  頭を下げたままの彼をじっと見つめた。  何と声をかけていいのかわからない。 「俺の知らないところで、たくさん苦労してきたんだな、愛音は」 「……うん」  それだけの返答だったのに、自分の声が思ったよりも震えていた。  きっと、私も今、泣いている。  だって…… 「覚悟なんて無かったんだよ、最初は」  ふっと自嘲するように息を漏らせば、壱月が顔をあげる。  私は何となく恥ずかしくなって、慌てて窓の方を向いた。  鼻をすすって一呼吸置き、涙をこらえる。 「妊娠が分かったとき、本当は堕ろすつもりだった。父親もいない状態で、どうやって子育てするんだって。でも……」  初めて産院に行った日を思い出す。  問診票の「出産しますか?」の項目の、「望まない」の欄にチェックを入れたあの日。  検査室で、超音波の映像がモニターに映し出された。  そこで、私は見てしまったんだ。  必死に動く、小さな命を。 「自分の中から、自分じゃない心臓の音がした。それ聞いたら、意志がぶれちゃったんだよね……」  堕ろさなかった理由は、ただそれだけ。  そこに、覚悟なんて全くなかった。
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