1 二度目の再会は突然に

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 この部屋は、姉の契約している部屋だ。  私と花斗は、居候(いそうろう)。  妊娠を告げた際に親に実家を追い出されたのが原因で、今の職場からほど近い姉の家に拾ってもらったのだ。  生活費は折半、しかし家賃は姉の全持ちだ。  シングルマザーで時短勤務をしている分、給与が少ないからという姉の好意に、今まで甘えてきてしまった。  引越費用は痛い出費だ。  花斗の未来のためにと、毎月少しずつ貯めた貯金を崩さないといけない。  かといって、ここに住み続けるには少し家賃が高すぎる。 「いい加減、ちゃんと部屋探さないとね」  ぽつりと零すと、姉はパッと目を見開いた。 「竜翼(りょうすけ)にも、同居提案してみようか?」 「やめてやめて、それは勘弁!」  結婚間近な二人の愛の巣に、子連れの妹が入り込むなんて野暮すぎる。 「でもさ、これでも責任感じてるんだよ?」 「え?」  はっとして姉を見ると、困ったような笑みを浮かべていた。 「愛音を妊娠させた相手、私が勧めたマッチングアプリで出会った人なんでしょ?」 「う……」 「だからさ、――」  言いかけた姉の言葉を遮った。 「お姉は悪くないよ! 実際、お姉はあのアプリで竜翼さんと出会えた訳だし。悪いのは、あの日彼に体を許してしまった、私」 「そうは言ってもねぇ……」 「いいの! お姉がうまくいっていて、私は嬉しいよ?」  張り付けた笑顔を姉に向けた。  その言葉は本心だったけれど、後ろめたさを感じているお姉には申し訳なかったのだ。 「……ありがとう。愛音は良い妹だ!」  お姉はそう言うと、また困ったような笑顔をこちらに向けた。 「さて、と」  そう言って姉は立ち上がる。 「皿洗い、後は私がやっておくよ。愛音はもう寝な~」  そう言って腕捲りをして、シンクの前に向かう姉。  今度は私が困ったと笑みを浮かべて、姉に「ありがとう」と声をかけた。
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