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「いいよ」
私はポツリと、でも自信を持ってそう言った。
「ああ。忘れろ忘れろ、あんなのとっとと……」
「違う」
「……は?」
「壱月と付き合うって、こと」
「……え?」
壱月は窓から視線を外し、ゆっくりとこちらに振り向き目を見開く。
「……ガチで言ってる?」
「うん、ガチ。本気と書いてガチ」
戸惑うその瞳をしっかりと見て、答えた。
ずっと、気持ちに靄がかっていた。
それは、壱月への“好き”の気持ちを誤魔化すために、“最低な男”というレッテルを壱月に貼り付けていたからだ。
どこかで、セーブをかけてしまっていたんだ、私自身が。
「愛音……本当にいいのか?」
「……やっぱりやめようかな」
気恥ずかしくなっておどけると、そんな私は再び彼の腕に包まれた。
「やだ。やめないで……」
「『やだ』だなんて、花斗みたい」
クスクス笑うと、壱月は腕をとき、代わりに右手で私の顎をすくう。
「俺は、花斗じゃないんだけど」
「わ、分かってるよ……」
そう言いながら、目線の先に壱月の顔が迫ってきて、心臓が急に騒ぎだす。
「愛音」
「な、何……?」
「目、つむれ」
「え……?」
「いいから」
言われた通りに目をつむる。
壱月の吐息が、顔にかかる。
ああ、これは……。
懐かしい口づけの予感。
肩に、つむったままの目に、唇に、思わず力が入った。
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