11 私の決意

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 そんな私に、“ちゅっ”と優しく触れて、彼の唇は去っていく。  ゆっくり目を開くと、壱月は私の顎に触れていた手で自身の口元を隠していた。  その頬は、赤く染まっている。 「わり、先走った」 「え……?」 「嫌だろ、急にキスとか……」  それで、彼の言葉の意味を悟った。 「別に、もう大人だし……」 「大人だからだ。愛音のこと、大事にしたい」 「壱月……」  そう言い切った彼が、なんだか急に愛しく思えてくる。  私はぐっと背筋を伸ばして、壱月の頬に口づけた。 「ちょ、愛音!」 「……仕返し、的なやつ」  やってから恥ずかしくなって視線を逸らすと、壱月はもう一度ぎゅっと私を抱き締めた。 「少しだけ、こうさせて」 「うん」  壱月の胸に頭を預けた。  先程までは聞こえていなかった彼の鼓動が、聞こえてくる。  それも、うるさいくらいに高鳴っている。  嬉しい。  壱月が、ドキドキしてる。  私も、彼の背中に手を回した。  今度は、泣いてなんかいない。  幸せな、恋人同士の抱擁に、それだけで胸が満たされる。  これは、忘れていた、恋する気持ち。 「あのさ、」  私を抱きしめたまま、不意に壱月が口を開いた。 「愛音にいっこ、言ってなかったことがあるんだけど」
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