12 花斗の未来を描いて

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12 花斗の未来を描いて

 明日は休み、明日は休み……それだけを心の頼りに、眠い頭をフル稼働して仕事に臨んだ今日一日。  二十代も後半になると、やっぱり睡眠不足が身体に来るらしい。 「店長、発注書間違ってますよ。ほら、ここ」  水瀬に指摘されなければ、ハーフパンツ十万枚をどう売りさばくつもりだったのか、自分に問いたい。  私はまだしょぼしょぼする目に目薬をさして、頬をペチペチ叩く。  それから、朝買った缶コーヒーをゴクリと飲み干した。 「店長、なにかいいことありました?」 「え!?」  その日の業務終了後、引き継ぎをした水瀬にそう言われて思わず大声を出してしまった。  一瞬ぴくりと肩を震わせた水瀬は、そのままニヤニヤと笑みを浮かべる。 「疲れてるようにも見えるし機嫌いいようにも見えるし……お子さんのことですかね? いや、これは“旦那さん”と何かありましたね!?」  出た!  水瀬の鋭い観察眼。  普段は抜けてるくせに、こういうところは目敏いんだよなあ……。  ため息をひとつこぼし、水瀬をあしらうように言った。 「別に真田さんは“旦那さん”じゃないから」 「あ!?」  突然の水瀬の大声に、今度は私がぴくりと肩を震わせた。 「な、何……?」 「店長、今初めて否定した! しかもけっこうナチュラルに!」 「え、そうだっけ?」 「そうですよ! ってことは、本当にいい人見つかったんですね!」  なぜそうなる?  水瀬の思考回路は理解できないが、実際そうだから仕方ない。  「うん、まあね」なんて曖昧な返事をすると、ツンツンと背中をつつかれた。 「店長、今度は逃がしちゃダメですよ?」  何も知らないくせに、水瀬はニヤニヤと笑みを浮かべて売り場に戻っていく。  会社中に知られるのは時間の問題だ、と私はもう一度ため息をこぼしてから退店し、花斗の元へ向かった。
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