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「ママー!」
保育園につくと、花斗は画用紙片手に入り口まで走ってきた。
お絵描きをしていたらしい。
「見て、いつきの飛行機!」
バンっと胸を張って見せられたのは、飛行機(?)の絵。
どうやら壱月にもらったものを絵に描いたらしい。
いつの間にそんなに思い入れができたのか。
「うん、上手だね」
「持って帰る!」
「はいはい」
画用紙を私に手渡しながら、「『はい』は一回でしょ!」といつものやり取りをしていると、姉がこちらにやってきた。
「花斗くんは、手を洗ってきましょう」
「はーい!」
駆けていく花斗を見ながら、姉は私に耳元でこっそり聞いてくる。
「花斗くん、楽しそうだけど……平気?」
思わず顔を引き姉の顔をみると、困ったように微笑んでいる。
私は画用紙をくるくると巻きながら、口を開いた。
「うん……あのね、」
姉は「ん?」と首をかしげる。
全てを知っている姉になら、話してしまおう、と思ったのだ。
「壱月と、付き合うことにした」
「……え?」
思った通り姉は目をパチクリとさせる。
その反応に、私は自嘲するように笑った。
「壱月にも事情があったみたいだし、一人で何でも抱えて生きることないかなぁって。仮にもアイツ、花斗の父親だからさ」
「……そっか」
私は手を洗う花斗の後ろ姿を見つめた。
「あ、花斗には言ってないから! いつかは、言うつもりだけど……」
「了解。園にも言わないでおくね。余計な詮索されたくないでしょ?」
「うん、ありがとう」
優しく微笑んだ姉にお礼を告げると、「困ったらいつでも言ってね」と小声で言われる。
ちょうどそこで花斗が帰ってきてしまったから、それには返答できなかった。
けれど、本当に、姉には頭が上がらない。
「花斗くんは、明日はお休みだね?」
「うん! 先生、またね!」
「はい、さようなら」
園を出たところで振り返る。
こちらに手を降る姉の顔が慈愛に満ちていていて、私はなんだか泣きたくなった。
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