12 花斗の未来を描いて

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「ママー!」  保育園につくと、花斗は画用紙片手に入り口まで走ってきた。  お絵描きをしていたらしい。 「見て、いつきの飛行機!」  バンっと胸を張って見せられたのは、飛行機(?)の絵。  どうやら壱月にもらったものを絵に描いたらしい。  いつの間にそんなに思い入れができたのか。 「うん、上手だね」 「持って帰る!」 「はいはい」  画用紙を私に手渡しながら、「『はい』は一回でしょ!」といつものやり取りをしていると、姉がこちらにやってきた。 「花斗くんは、手を洗ってきましょう」 「はーい!」  駆けていく花斗を見ながら、姉は私に耳元でこっそり聞いてくる。 「花斗くん、楽しそうだけど……平気?」  思わず顔を引き姉の顔をみると、困ったように微笑んでいる。  私は画用紙をくるくると巻きながら、口を開いた。 「うん……あのね、」  姉は「ん?」と首をかしげる。  全てを知っている姉になら、話してしまおう、と思ったのだ。 「壱月と、付き合うことにした」 「……え?」  思った通り姉は目をパチクリとさせる。  その反応に、私は自嘲するように笑った。 「壱月にも事情があったみたいだし、一人で何でも抱えて生きることないかなぁって。仮にもアイツ、花斗の父親だからさ」 「……そっか」  私は手を洗う花斗の後ろ姿を見つめた。 「あ、花斗には言ってないから! いつかは、言うつもりだけど……」 「了解。園にも言わないでおくね。余計な詮索されたくないでしょ?」 「うん、ありがとう」  優しく微笑んだ姉にお礼を告げると、「困ったらいつでも言ってね」と小声で言われる。  ちょうどそこで花斗が帰ってきてしまったから、それには返答できなかった。  けれど、本当に、姉には頭が上がらない。 「花斗くんは、明日はお休みだね?」 「うん! 先生、またね!」 「はい、さようなら」  園を出たところで振り返る。  こちらに手を降る姉の顔が慈愛に満ちていていて、私はなんだか泣きたくなった。
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