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1.
私は、会社のパウダールームで、何度も深呼吸をしていた。
"落ち着け、いつも通りに、いつも通りに…"
だが、いざ、出ようとすると、なぜか思いとどまってしまって、さっきからずっと、パウダールームを行ったり来たり…というのを繰り返していた。
"何もないようにしないと…、心が持たない…"
こう、思っているのには、理由がある。
私、中松優乃は、昨日、会社の人気者である5歳年上の、早宮 洸とー
思いと、身体を、通じ合ったのだ。
まさか、会社の女性社員達から絶大な人気を誇る彼と、思いを通じ合えるなんて、夢にも思っていなかった。
そして、その後のことも-。
"早宮さん、朝、顔を合わせずに去っちゃったから、ちょっと気まずい…"
そう、自分が一度、目を覚ましたときは、隣で眠っていたのだが-
次に自分が目を開けたときには、彼の姿はなく、ベッドの側の椅子を見ると、床に散らばっていたはずの、自分の服と下着をきちんとたたんで置いてくれていてた。
そして、その上には、メモが一枚、置かれていて、
"もし、体が痛かったら、間違いなく僕のせいだ。ごめん。
あと、朝は冷え込むから、風邪をひかないように"
と、書かれていた。
"自分の体のことを気にしてくれているなんて、本当に紳士な人だな…"
そう考えていた私はそのとき、早宮さんの香りが残るパーカーを、肌の上から直に羽織っていた-。
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