1.

1/3
前へ
/5ページ
次へ

1.

私は、会社のパウダールームで、何度も深呼吸をしていた。   "落ち着け、いつも通りに、いつも通りに…" だが、いざ、出ようとすると、なぜか思いとどまってしまって、さっきからずっと、パウダールームを行ったり来たり…というのを繰り返していた。 "何もないようにしないと…、心が持たない…" こう、思っているのには、理由がある。 私、中松優乃は、昨日、会社の人気者である5歳年上の、早宮 洸とー 思いと、身体を、通じ合ったのだ。 まさか、会社の女性社員達から絶大な人気を誇る彼と、思いを通じ合えるなんて、夢にも思っていなかった。 そして、その後のことも-。 "早宮さん、朝、顔を合わせずに去っちゃったから、ちょっと気まずい…" そう、自分が一度、目を覚ましたときは、隣で眠っていたのだが- 次に自分が目を開けたときには、彼の姿はなく、ベッドの側の椅子を見ると、床に散らばっていたはずの、自分の服と下着をきちんとたたんで置いてくれていてた。 そして、その上には、メモが一枚、置かれていて、 "もし、体が痛かったら、間違いなく僕のせいだ。ごめん。 あと、朝は冷え込むから、風邪をひかないように" と、書かれていた。 "自分の体のことを気にしてくれているなんて、本当に紳士な人だな…" そう考えていた私はそのとき、早宮さんの香りが残るパーカーを、肌の上から直に羽織っていた-。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加