最悪な男の末路

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1 新幹線の最前列に2人が乗車していた。そのうち1人はビールを飲んでいたが、もう一人は真っすぐの視線で微動だにしなかった。 「どう思う?40歳すぎて何も積み立てられず、完全なる絶望感を味わってる者がやる事は何か」 「どうしたぁ急に。それより酒飲めよぉ」 「アルコールは一滴も受け付けない。もう一度質問を…」 酔っ払いは相当酒を浴びているらしく、ろれつの回らない感じだった。 「何だその質問はぁ~」 視線を真っすぐ向けた男はびくともせずにゆっくり言った。 「俺は、俺を、肯定する」 酔っ払いは視線も曲がっていたが、男の座席の横にポリタンクがあるのを発見し、しばし見つめた。 2 男が自分用の長いロッカーを開けると、中から腐ったオレンジが数個転がってきた。 男はオレンジを完全に無視し、工場作業の服に着替えて作業場に入った。 3 数発殴られて目も紫色をした男は、黒ぶち眼鏡を購入し、壊れた赤色フレームを捨てた。 4 「何にも考えず箱根まで温泉にいこうや」 そう言うと、男は俺のご機嫌を確かめた。  黒ぶちの眼鏡を両手で上げながら、言った。 「いいよ。行こう」 「本当か!じゃ有給休暇をもらうから約束だぞ」 「ああ」 5 俺は色んな業種を調べ、面接をしたが年齢の事を指摘され、拾うものは1件も無かった。 赤色の眼鏡をクイと上げる。いやまだ受かる場所があるはずだ。40歳でも出来る仕事が。 6 俺は帰すあてもないのに、貯めに貯めたクレジットカードで計700万円の借金をした。 7 「なんでおっさんがこんな所に入ったんだぁ⁉」 「あんただっておっさんだろう」 赤い眼鏡を片手で覆うように上げると、おっさんの拳が前から突然現れた。 8 「どうしたんだ、その顔?」 男は俺に、たずねて来た。 「自分でも分からん。」 黒い眼鏡を上げながら言った。 9 「ウチは年齢不問だから、あとはやる気かな?どうだい」 「おねがいします」 俺はそう言ってお辞儀をした。工場長はまんざらでもない顔をしていた。 10 俺の老いた両親宛てに、小さな箱の宅配便が届いた。 中を見るとそこには700万円が入っていた。 11 何とか1件、良さげな仕事をハローワークで見つけた。 早速面接してくれると言う。ありがたい話だ 12 「早く早く!乗り遅れるなよ」 俺は重い荷物を持っていった為、何とか新幹線に無事乗車できた。 13 俺は工場長に、殴られた件を洗いざらい話した。 聞いた工場長は、 「そんな事をした奴は即刻クビだ!」 俺は、ざまぁとばかりに黒い眼鏡を上げ、微笑んだ。 14 俺はガソリンスタンドにポリタンクを持ち、途中で車が止まったのでガソリンを欲しいと懇願した。 しょうがないなという顔でポリタンクにガソリンを注いだ。 15 「何でこんな所に来たんだ?」 「あんたに言いう事はない」 先輩にあたるおっさんがすごい剣幕で畳みかけた。 「ちょっとでも作業遅れたら、工場長にチンコロすっからな!わかってんのかこのクズが!」 「どうぞご勝手に。俺は仕事に戻ります。」 俺は赤い眼鏡を両手で上げた。 16 もう俺は失う物はなくなった。両親にあげた金も、これから俺のする事への迷惑料だ。 だから俺は、これから自分のやる事だけに集中していた。 17  何回も執拗に続くイジメに耐えかねた俺は、電話で辞める事を伝えた。 普段吸わないタバコを吸ってみたが頭痛がするだけで、安らぎは得られなかった。 18 俺が専用のロッカーを開けると、今まで嗅いだ事のない缶詰が置いてあった。 もうだめだ。もうそろそろ工場長に言うべき時が来た。 19 新幹線の最前列に2人が乗車していた。元同僚の1人はビールを飲んでいたが、俺は真っすぐの視線で微動だにしなかった。 「どう思う?40歳すぎて何も積み立てられず、完全なる絶望感を味わってる者がやる事は何か」 「どうしたぁ急に。それより酒飲めよぉ」 「アルコールは一滴も受け付けない。もう一度質問を…」 酔っ払いは相当酒を浴びているらしく、ろれつの回らない感じだった。 「何だその質問はぁ~」 視線を真っすぐ向けた男はびくともせずにゆっくり言った。 「俺は、俺を、肯定する」 酔っ払いは視線も曲がっていたが、男の座席の横にポリタンクがあるのを発見し、しばし見つめた。 「そのポリタンクは…」 俺はポリタンクを取り出し先頭1両目にガソリンをまき始めた。残ったガソリンを俺にもかける。 「みんな俺の為に死んでくれよなぁ?」 俺はそう言って、火のついたジッポライターをガソリンに落とした。 了
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