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『──桜祭りではうちの小早川に付き合わせてすみません。多分あの子、有里さんのこと気になってて距離縮めたくて必死なんです』
『古淵さんも気をつけた方が良いですよ。小早川って、自分のために他の人のこと利用できるタイプなので。悪い子じゃないんですけどねえ』
〇町支店のテラーの人達からそんな話を聞いた時。馬鹿な俺でも流石に、小早川さんが今居る環境の厳しさを思い知るには十分だった。ちょっとでも良いから何かしたくて、支店長に仲さんへのアポイントを強引にお願いした。そんな風に自分の勢いまかせの行動のきっかけにしただけで、彼女達の話を信じるつもりは全く無かったけれど。
「…穂高」
「はい」
「俺が、お前と小早川さんとのこと、気にしてると思ったの?」
じっと見つめながら尋ねると、意外そうに目をまじろいだ穂高の表情が苦笑いに変わった。どうして態々このタイミングで、梨木っちとのことを伝えてくれたのか。いつも気配りができる後輩だからこそ、なんとなく理由が分かってしまった。
「杞憂だと思いましたけど。あの頃からずっと、小早川さんは古淵さんにちゃんとゾッコンだったのは伝えたいなと思いました」
「全然大丈夫。俺は、他の人から聞いたことを湯吞みにしないよ」
「”鵜呑み”ですね」
「……いや、”全然大丈夫”は、ちょっと嘘だった」
「え?」
「…桜祭りの時。穂高と小早川さんのツーショット見て、仲良しだなあとは、思った」
楽しそうに商店街のカフェの前で話す二人を見て、「なんにも思わなかった」は、さすがに多分嘘だ。なんとなく心臓がざわついて、それを隠すように笑った自分を思い出して結局自白してしまった。格好悪いなあ俺、相変わらず。はあと溜息を吐くと、イケメン後輩が隣で笑う気配があった。
「古淵さんは、格好いいですね」
「あの、穂高君?俺今まさに、自分のこと格好悪いと思ったんですけども」
「見る目ないですね」
「ん???俺が?俺を?」
「はい。そして小早川さんはめちゃくちゃ見る目があります」
「…穂高」
「はい?」
「梨木っちも見る目しかないし、俺はお前を大事にするとこのアジフライに誓う」
「なんでアジフライ」
真顔で大真面目に伝えたのに「いや、お互い褒め合って、なんすかこれ」とかわしてくる後輩の柔らかい笑顔は、やっぱり満点に可愛かった。
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