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「俺、家まで送ります」
「……へ?いや、大丈夫です!」
「だめ、俺が心配なので」
「ありがとうございます…」
もうちょっと抱き締めていたかったけど、これ以上は色々まずいと、彼女を解放する。小早川さんの最寄駅を聞いて改札へと足を進めようとした時だった。
「駅から家まではどのくらい…小早川さん?」
やたらとニコニコ笑ってこちらを見つめる彼女に気づいて声をかけると、「嬉しいです」といつもの可愛い声が、どこかロートーンになって鼓膜を揺らす。
「え?」
「まだもうちょっと、一緒に居られる。何お話ししましょうか」
へへ、と照れたように笑って俺の手を取って隣を歩く小早川さんは、さっきまでと様子が若干違う。
「…小早川さん」
「はい?」
「え、今酔ってますか」
「いえいえ、まさか。バッチリです」
「どっち!!」
「ふふ」
絶対酔ってる…!なんで急に!?
いや、もしかしたら俺が来るまでは、ちょっと気を張っていたのかもしれない。いつも頑張り屋さんの彼女は同期達の間でも、気を遣ったのかもしれない。俺の前では違うのかな、なんて勝手に自惚れると嬉しいけど。
その時、ぎゅううと繋いだ手に力が込められた。突然の衝撃に言葉も出ず絶句して彼女を見下ろしていると、視線に気づいて無防備に笑いかけてきたりするので、また殺されかけた。
待て…!!
"それいけ"ってどこまで勢いで
突っ走って良いの!?
このままでは、めでたく狼デビューしそう
ですがそれは流石に絶対だめだと
アホな俺でも分かってます。
そんなの分かってますけど…!?(2回言う)
「電車乗る前は酔いが変に回ってて…本当すみません。結局家まで送ってくださってありがとうございます」
「いやいや!全然大丈夫です。…じゃあまた、」
「……」
「……小早川さん?」
「ほんとに、このまま、帰ってしまいますか?」
「……え…?」
fin.
(古淵、健闘を祈る)
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