▷それいけっ!古淵くんっ!

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「小早川さんとは、会えてるんですか?」 「ん?いや、付き合ったのも先週の話だし。今週はまだ会えてないなあ」 「……へえ」 「え、なんで驚く??」 「なんとなく、古淵さんは毎日でも会いたいタイプかと思ってました」 「いやそりゃ気持ちはめっちゃ会いたいけど平日はお互い仕事もあるし……って何言わせるんだ!!」 「え、俺のせいですか?」 今日はなんだかずっと楽しそうな後輩の誘導に乗せられてぽろっと零れた恥ずかしい本音に、今さら気づいても遅い。 《今仕事終わりました、今日もお疲れさまでした。今日は甘えて、お惣菜買ってきました。古淵さんの夜ご飯はなんですか?》 いつも一生懸命働く小早川さんはきっと毎日へとへとになっている。それでも律儀にメッセージをくれて、それがまた何気ない内容でめっちゃ可愛い。残業してる時に見るとより癒される。そういう優しい彼女に、俺の存在が負担になるのは絶対嫌だ。だからこの浮かれた気持ちのままに、暴走しないよう気を付けないと。 「…会社がそこそこ離れてると、やっぱり厳しいですね」 「穂高はどうなの!梨木っちと!平日に会ったりすんの?」 「いや、俺も向こうも最近外回りとか出張多いのであんまり。結構すれ違ってます」 「…そっかあ」 確かに、梨木っちの細かい業務までは把握してないけれど抱えている案件が増えてきているというのは前に聞いた。穂高は期待のエースでしかないし、なかなか時間を取るのは難しいのかもしれない。何か言葉をかけたいけど俺の言葉のタンス(タンスで良いんだっけ?)では何も良いものが見つからなくて、よしよしと思わず頭を撫でる。困ったように破顔する後輩が、「だから」と切り出した。 「今度の休み、〇町商店街に連れて行こうかなと思ってて」 「……え?」 「桜祭りに参加した際、小早川さんにあいつが喜びそうなスポット教えてもらったんです」 「そうだったの?」 「……あの日、俺が小早川さんと2人になった時に話したのは、俺と梨木が好きなバンドのことと、後はずっと古淵さんのことです」 きゅ、と口端を持ち上げながら穏やかに告げた穂高の言葉で思い出すことが一つ。
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