▷それいけっ!古淵くんっ!

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◆ 「古淵さん!これ俺のランチ代です」 「え〜いいよ、もう一緒に払っちゃったし。また後で貰う」 「いつもそう言って、結局受け取ってくださらないじゃないですか」 定食屋さんを後にした途端、慌てたように穂高が自分の財布から千円札を取り出した。笑ってそれを突き返すと、険しい表情の後輩が溜息を吐き出す。ほんと、穂高は真面目だなあ。俺だって先輩たちに沢山ご馳走してもらってきた過去があるんだから、こんなん当然なのに。責任感の塊のような男の姿をにこにこ観察しながら「さっきのお礼も兼ねてるし」と言った。 「お礼?」 「うん。…付き合う前の、小早川さんの話も聞けて嬉しかった」 「はい。お伝えできてよかったです」 「あとは、穂高が梨木っちにゾッコンってことも知れたし。午後もこの尊さで頑張れそう」 「……そのまとめ方は最悪でした」 「あら、またぶっちょー面に戻ってしまった!?」 素直に感想を述べたら、端正な顔立ちがまた一層険しさを帯びる。視線を逸らす様さえなんか、俳優さんみたいに見えるから羨ましい。照れてるんだなと思うと貴重で、写真を撮りたくなったけど、さすがに我慢しよう。 「にしても、ここにも素敵な同期ラブがあったとは。同期、かけがえがない、優勝」 「…古淵さんは、同期の皆さんのことが本当にお好きですね」 「そりゃあ好きだよ!?学生時代の友達っていうのともちょっと違うようなさあ、でもやっぱりめっちゃ大事」 「そっか。友達とは違うんですね」 「もはや友達の向こう側って感じ。これはマジと書いてマジ」 「"本気"って書いて欲しかったです」 入社してから、同期の存在にどれだけ支えられてきたか分からない。デザイン部にいる気だるさたっぷりのくせに仕事の出来る格好いい男とか、営業部でずっと一緒に戦ってきて今は違う部署で頑張っている素直な子とか、今や総務部のドン(この間言ったらめっちゃ嫌がられたけど)で姉御肌の同期想いの子とか。 他にも地方に配属されてあまり頻繁に会えない奴らもいるけど、仕事で同期の名前を見ると嬉しい。みんなの存在が、俺はとても誇らしいのだ。これからも勿論、大事にするに決まっている。
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