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「次長。そろそろアポのお時間なので、お迎えに行ってきます」
「おーありがとう、よろしくね」
明くる日のお昼休みの後、14時からのアポイントに合わせて支店の入り口に向かった。店舗は、利用するお客様が沢山出入りする場所なので商談で来る方が入り口に迷われることも多い。
スムーズに会議室にご案内出来るよう足を繰り出すと、外の新鮮な空気が自分の体内に入ってくる。
『小早川さん、テラー代表でプロジェクトの参加引き受けてくれてありがとうね〜〜!快諾したって聞いたよ、ほんと神』
『うちらも応援してるし出来ることあったら言ってね』
『そうだ、どうせなら今のザ・銀行って感じのお堅い内装じゃなくてお洒落な店舗にして欲し〜〜』
今日のランチでの会話を思い出して、心がずしんと重さを増す。なるべく早くこのプロジェクトを完遂して、通常業務だけに戻りたい。
引き受けたからには中途半端なことは出来ないとわかっているけど、これから更に増えるであろう仕事に憂鬱は大きい。胸に抱えた資料を握りしめて、一つ溜息を吐き出した。
「──あ!!三つ星銀行さん此処だ!!」
元気にうちの銀行の名前を呼ばれて、落としていた視線を持ち上げると、スーツ姿の男性2人が近づいてくるところだった。
「ちょっと早く着きましたね」
「14時からだっけ、楽しみだなあ」
「……古淵さんって緊張とか無いんですか」
「いやまあ無くはないけど。でも俺、銀行さんの案件担当すんのは初めてだからさあ。どういう人達が居るのかなって考えるとワクワクする」
「成程、すごいですね。…俺は普通に、"金融機関"っていう厳しそうな組織との仕事だって考えるだけで結構緊張してます」
「穂高、最近そういう素直な気持ちも伝えてくれるようになってキュン。でも大丈夫、何があっても俺はお前のこと絶対守るからな!!……どう!?」
「え、どうって?」
「キュンとした!?お返しのつもりなんだけど」
「あ、はい。凄くしました」
「え、キュンってそんな真顔でするものだった???面白いくらい手応えがゼロだけれども」
「はは…っ」
「えええ不意打ちの笑顔かわいっっ!?」
「やめてください」
何やら賑やかなお2人の会話が途切れ途切れに聞こえて、「もしかして」と察する。ゆっくり近づく途中、ばっちりそのうちの1人と視線が絡んだ。
すらりと高い身長にグレーのスーツがよく似合う。でもこちらを見つめる、くりっくりの丸くて大きな瞳があまりに印象的だ。…というかそこに意識を持っていかれ過ぎて「ワンコみたい」なんて初対面で失礼な感想を抱く。
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