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美術館は、まさに長蛇の列。
2時間ないし3時間待ちである。
「こんなにならんで、ばっかじゃないの」
「しょうがねぇだろ、きょうしかこれないんだから」
「時間えらべばよかったのに」
「いまさらいうなよ」
「…それにしても、がまんづよいっていうか、どいつもこいつも、よぉく、だまってまってるもんだ」
おれもそのうちのひとりだ、な。
おめあての絵にたどりついた。
1時間45分たっていた。
ちびっこがひょっこりと絵にちかづいた。
こうべを左、右とふりながら、べろをだしてからだをくねらせる。
「なんだこれ」
ちびっこはいう。
「へんな絵」
まわりのおとなたちは不意をつかれた。
めのまえの絵は大巨匠が描いたものだ。
それを、へんな絵よばわりされたのである。
へんな絵か。
おじさんはおもった。
…たしかにへんな絵だ。
…どうみてもかわった絵だ。
…そういえば、なぜみんなこの絵のまえでわらわないのだろう。
…わらってはいけないのだろうか。
…へんな、かわってる絵だって、いっちゃいけないのだろうか。
たしかに。
めっちゃ、へんな絵で、すったまげている絵じゃないか。
作者の動機に説明がほどこされている、とはいえ、へんな絵。
それにかわりない。
ちびっこのほうがまちがっていないじゃないか。
その絵のまえで、
しかめっつらして観ているほうが、
絵のたのしみかたをしらない。
おじさんはそのちびっこのくもりない眼をうれしくおもった。
そのおおきな絵の下には、
GUERNICA GERNICARA (ゲルニカ)
と書かれていた。
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