最終章 1、元悪役令息は最後のピンチに

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最終章 1、元悪役令息は最後のピンチに

   道に迷いし子よ  どうやら愛を見つけたようだな  どこまでも続く平原。  俺はまたひとり、ゾウの背中に揺られていた。 「ごめんなさい。結局、ゾウの神様が用意してくれたゲームのシナリオはめちゃくちゃになってしまいました」  そんなものは、もうどうでもいい  お前が好きなように進めればいいんだ  そのためにこの世界に戻したのだから 「戻した? どういうことですか?」  お前はゾウに愛される魂として、この世界に運ばれるはずだった  だがその途中でこぼれて、前の世界に落ちてしまった  輝きを失い、小さな灯火のように生きてきたはずだ  今はシリウスという新たな生を受けて、ようやく元の輝きを取り戻したということだ 「もともと……この世界に……」  そうだ  お前は世界を照らす光になるはずだった  ヒトの中に入ってもそれは変わらない  今度はお前の周りの、愛する者達を照らす光になればいい 「光……俺が……」  最後の試練の時が来た  お前がどの道を選んでも、私は祝福しよう  自分の光を信じて………  ぽたり  ぽたり  頬に生暖かいものがぽたりと垂れて、耳の後ろに流れていく。  まだ眠っていたいのに、無理矢理起こされるような感覚、暑くて息苦しい。  長い夢を見ていた気がする。  あの夢だ。  なんとなく覚えているが、記憶も内容もふわりとしている。  今は頭痛もするし、何もかもが不快だ。  硬い寝床も、ずっとぐらぐらと揺れている感覚も全部嫌だ。 「ゔっ、う………」  力を入れると、口から乾いてしゃがれた声が出てきた。  なんて声なんだと薄っすらと目を開けると、わずかに光が入ってきた。  目の眩む光の強さにすぐに目をつぶった。 「こ……、ここは………」  手を上げようとしたが、身体中がひどく重くて力が入らなかった。  眩しさを覚悟しながらまた目を開けると、今度は慣れたのか、日陰になったのかそれほど眩しくなかった。  目の前に見えるのは木の扉。  いや俺は寝転んだ状態のはずだから、体の上を木でできた何かが覆っている。  木を組み合わせて作られていて、所々空いた隙間から光が差し込んできていた。  そこまで見えてから首を動かして自分の体の周りを確認すると、よく分からないが小さな箱や瓶、粉袋や果物のような物も見えた。
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