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真白な薔薇の咲く、豪華な王宮の庭。
国中の貴族の小さな子息令嬢が集められた、豪華なお茶会で。
「……っ!!…かわいい……!!」
「……ほぇ?」
目の前で、顔を真っ赤にした少年が「かわいい」と、そう呟く。
僕_ルドルフ・レマラックは、その少年の美しさに見惚れ、間抜けな声を上げながら手にしていたマカロンをぽとり、と落とした。
春の陽の光を束にして集めた様なキラキラの金髪に、晴天をそのまま閉じ込めたみたいなスカイブルーの澄んだ瞳。
雪のように白い肌に、紅潮した頬は熟れた桃のよう。
その少年は、まるで教会のステンドグラスから天使が抜け出してきてしまったと思うぐらいの愛くるしさだった。
一方僕は、この国の貴族では在り来りなチャコールグレーの髪にグレーがかった紫の瞳。
絶世の美少年が、そんな凡庸な僕に向かって「かわいい」と言っている。
それがなんだかおかしくて、僕は思わず笑ってしまった。
「ふふっ、おかしいの。かわいいってのはね〜きみみたいな人のことを言うんだよ?」
続けて「きみもマカロンいる?」とこてんと首をかしげると、少年はさらに顔を赤くして、コクコクと頷く。
「黄色のマカロンをどうぞ!僕の一番のお気に入りだよ?」
そう言って、目の前の男の子に黄色のマカロンを渡してから、自分でさっき落としてしまったピンクのマカロンを拾う。
……あぶないあぶない、大事なマカロンをひとつ無駄にしてしまうところだった。
「さんびょうるーる」とか言うし、綺麗な芝生だったし、大丈夫だよね?とパクリと口に入れてしまう。すると、後ろの方で悲鳴が聞こえてきた。
あ、しまった。あの声はお母様だ。
やっぱり、拾って食べたのいけなかったのかな。
この後お説教かな、いやだなぁ。
そう思うと、ちょっとだけ冷静になって、そういえば、と考えをめぐらす。
そういえば、なんで僕今日ここに呼ばれたんだっけ?
えぇっと……。今日は確か、国の第二王子さまのおともだちを探すお茶会?で、同じ五歳で公爵家の三男坊である僕も、もちろん呼ばれてしまったんだった。
それで、それで……えっと、……だめだ、この美味しいマカロンに思考が遮られちゃう。
うーん、さすが、王宮のマカロンだよね。
ふわふわのサクサクで、甘くて……。
ちょっと芝生の匂いがするなんて、気にしない気にしない!
「あっ、あの……!!」
目を閉じて最高級のお菓子を味わっていると、さっきの綺麗な顔の男の子が、必死な表情で話しかけてきた。
そしてそのまま、片膝をついて、僕のマカロンを持つ手をキュと握って……。
……ちゅ。
「……へ?」
僕の手の甲に形の良い唇が押し当てられた。
……僕手の甲に、き、キスされてる……!?
「僕はルスダム王国が第二王子、ジェラルド・ルスディアム。
……大きくなったら、僕と結婚してください……!!」
さっきまでよりも一層真っ赤な顔をした少年と、一気に巻き起こった耳を塞ぎたくなるほどの黄色い歓声。
……この人が第二王子、ジェラルド殿下……!?
それに、……けっ、け、けっこん……!?
突然のことにびっくりして……。
マカロンが喉に詰まった。
「……っごふっ……!」
「えっ、ちょ、……君大丈夫……!?」
言葉どころか息も出来ずに力が抜けて、視界の慌てている美少年が滲んでぼやけていく。
どうすることも出来ずに、僕はゆっくりと意識を手放した。
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