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「……失礼ですが陛下、陛下は初対面のまだ十にもならぬ、なんの罪もない子供をこの間に呼び出した挙句、そんな大人でも怯むような威圧を放つような方だったのですか。それとも、うちの三男が私の与り知らぬところで何かをしたのでしょうか」
お父様は俺を守るように一歩前に出て、臣下として可能な限りの皮肉・非難を言う。それでもまだ陛下は俺の事を冷たい目で見ていて、ジェラルト様は痺れを切らしたようにこちらへと駆け寄ってきた。
「父上!何故ルドルフにそのような態度をとるのですか!」
ジェラルド様はお父様と俺を鏡にシンメトリーになるように立ち塞がり、俺の事を守るように陛下を睨めつける。
「公式の場では陛下と呼べ。ジェラルド」
「では代わりにルドルフに威圧を放つのをおやめ下さい陛下」
ジェラルド様が言っても陛下の険しい顔は変わらなくて、数秒間またしても陛下との間で睨み合いとなる。今度はそれを打ち砕くようにエドワード殿下の声が響き渡った。
「……ジェリ。陛下はな、ジェリが王位継承するのを望んでるんだよ。……母の不貞の末に生まれた俺ではなく、な?」
「エドワード!!!!!!」
「何です陛下、本当のことですよね。ジェラルドが男を婚約者に選べば、王位継承順は今のままで固まってしまう。男嫁は儀式をすれば子を作ることが不可能ではないとはいえ、子を成す確率は大きく減る訳ですから。そうなれば、俺を王位継承から引きずり下ろすことが難しくなる、だからそのような態度をとっているのでしょう?」
「黙りなさいエドワード!」
「どうせ俺とはブラッドリーを婚約者とするよう仕向けるつもりだったのでしょうが。ルドルフをジェラルドが選んでしまえば、レマラック公爵家との繋がりが深くなりすぎるためそれも不可能、そうなれば国内に丁度いい家柄の人は女ばかりになりますから。それが嫌なのですよね」
突然流暢に話し始めたエドワード殿下は、口には不敵な笑みを浮かべつつも、時々泣きそうな、つらそうな表情をしている。
……エドワード殿下が不貞の子…?ゲームでも出てこなかった設定だけど、父と不仲というのはそこから来てたのだろうか。
俺とジェラルド様が婚約するという勘違いを二人がしてるのは分かったけど、今の論点はそこじゃなさそう。それを今言ったところでより混乱させるだけだよね。
俺はそう思って、エドワード殿下と陛下の睨み合いをキュッと口を閉じて見ているしかなかった。
「エドワード!エドワードはどこにいるの!!!」
まだ陛下と殿下との言い争いが続きそうだと思っていた時、突如扉がバーンと開き綺麗な女の人が入ってきた。
長い紫髪に赤い瞳をした、優しそうな顔の美人で、エドワード殿下を見つけるなり、ギュッと後ろからハグをする。
「あぁ、ここにいるのをどうして知らせてくれなかったの?将来王となるあなたに何かあったらと不安でたまらなかったわ」
「お母上……」
お、お母様登場……!!
王と妃と、その不貞(?)の王子と。
ドラマでもなかなかないような、場の雰囲気で王家の知っちゃいけない騒動に俺は巻き込まれかけてるのだと、察した。
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