ルドルフ、前世を思い出す

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◆◇◆ 「えっ、お兄ちゃんもう、『アイネム』四人もルート攻略したの!?すご!!」 ポカポカ陽気の昼下がり、兄妹ふたりでコンビニへと向かう道中、自分より頭一つ分小さい妹にそう聞かれて、俺は「まあな」とその頭を見下ろしながら答えた。 某感染症が流行り始めて数ヶ月。 五月をすぎても学校は依然休校。 俺と妹は自宅学習という名のニート生活を余儀なくされていた。 暇で暇で暇すぎて。今まで興味のなかったジャンルの互いの持つゲームを、交換してプレイし始めるほどだったけれど。日中二人っきりでも毎日楽しいと思えるほど、俺たちは仲のいい兄妹だ。 妹が好きな大人気恋愛ゲーム『愛の眠る間に、君と恋をする。』通称アイネムは、最初こそ慣れず大変だったが、なかなかに面白いゲームで、気がついたらかなりやりこんでしまっている。 ある国の貴族の学園に、主人公である他国の姫(または王子)が留学生としてやってきて、そこで五人の主要キャラを初めとしたイケメンたちとの恋愛を楽しむゲーム。 俺は恋愛対象はあくまで女の子だし、特にイケメンと恋愛したいとは思ってないけど、ストーリーとしても楽しめる位に面白いし、それより何より、妹と共通の話題が増えるのが嬉しかった。 「でも、ジェラルド?だっけ、あの第二王子のルートだけがどうやってもグッドエンドにならないんだよなぁ……」 「あはは、ジェリ様ルートは最難関だからね!」 「やっぱりそうなの?他のルートで出てきた限り一番まともそうで好きなんだけどな……」 「……好感度上げのキーポイント、教えようか?」 「……うーん、遠慮しとく。せっかくここまで攻略サイト見ずに来たから、どうせなら自力で落としたい」 「ま、お兄ちゃんならそう言うと思った! ジェリ様ルートは私のイチオシだよ!!!ほんとに幸せな気分になるからね?」 「マジで?それは楽しみ、頑張るわ」 「ふふっ、お兄ちゃんがアイネムにここまでハマってくれるなんて、嬉しいなぁ」 そう言って、屈託なく笑う妹の向こう側。 大型のトラックがT字路を曲がらず俺たちの元へ直進してくるのが見える。 「……!!」 妹の名を叫び、咄嗟に庇う俺の背中に大きな影が落ちる。 ……やばい、避けられない……!!!! 抗えない死を感じ、強く目を瞑って。 大きな衝撃が走った途端、意識が途絶えた。
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