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メレンゲクッキーがこんなに美味しい食べ物だなんて知らなかった。二個目に手を伸ばすのを止められない。これをジェラルド様が一つ一つ手作業で作ったのだと思うと、小さな形の違い全てがかけがえのない宝物のように思えた。食べるのが惜しい、でも美味しいから食べるのが止められない。
ほっぺが落ちないように手で支えながら夢中になって食べる俺を見て、ジェラルド様はほっと息をつく。
「……良かったぁ。喜んでもらえた……」
「良かったな、あれだけ何回も練習してたもんな。
俺は失敗して焦げたやつ何個も食べさせられて……」
「あっちょっ、兄上!それは言わない約束です!!」
えっ、ジェラルド様の手作りお菓子のしょ、処女作はエドワード殿下が食べたってこと?それ以外の手作りもいっぱい??何それ、焦げてるとか関係なく羨ましすぎるぞ。
アワアワしてるジェラルド様が可愛くて癒されながらも、俺は恨みがましくエドワード殿下のことを見てしまった。
「そういえば、ルドルフは自分でお菓子を作ったことはあるか?」
俺の視線にキョトンとしながら、話題の流れでエドワード殿下が俺にそう聞く。多分何となくで聞いたのだろうけど、その言葉を聞いた途端、ブラッド兄様がフフッと吹き出して笑った。
兄様の笑いと同時に俺も思い出して、顔にカッと熱が集まる。
「ふふっ……ルディもお菓子を作ろうとしたことは、あるんですけど……。『美味しいお菓子を作るんだ!』って意気込んでたのに、作ってる途中で……ふふっ、我慢できなくなって、生クリームいっぱい食べちゃって……。それで、出来上がったのはこんな……こんなひと口サイズで……」
兄様が思い出し笑いのしすぎでそれ以上言葉を紡げなくなったけど、そこまで話してしまえばもう伝わるというもの。王子様二人も同じように堪えきれず笑い始める。よく見れば、部屋に立っているメイドや執事も肩を震わせていて、俺は恥ずかしさでこれ以上ないほど縮こまった。
そう、俺は……。というかまだ一人称が「僕」だった頃の自分は、だけれど。おそらく今でも同じで、お菓子作りが……できない。
だって、目の前の美味しそうな出来立てホヤホヤの生クリームだよ?我慢なんてできない。できるわけがない。
あの一件で、俺は作れない代わりにスイーツ界のスポンサー側になろうと決めた。俺はジェラルド様を含めて、お菓子が作れる人の事を心から尊敬している。
…………でも。
でもでも、みんなそんなに笑わなくてもいいじゃん!!
縮こまったままプクッと頬を膨らませて不満を顕にした俺にジェラルド様が気づいて、ごめんねと言いながらひとつメレンゲクッキーを勧める。
案の定その美味しさで即座に機嫌を直した俺を見て、兄様方は再び笑った。
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