ルドルフ、王様に謁見する

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◆漆黒の第一王子◆(エドワードside) 俺の味方は王宮内にただ一人、ジェラルドだけだった。 多分、それはジェラルドも同じで。互いを理解しうるのは互いのみ。対のような髪色に違った顔立ちで、手を取り合って生きてきた。 弟は王族らしい金髪に、父上譲りの碧眼。その容姿が羨ましいと思ったことは何度もある。でも、俺が常に感じていたのは、嫉妬ではなく罪悪感だった。 ……なぜなら、きっとジェラルドは、俺さえ居なければ愛された子だったから。 第一王子のスペアとして義務の為生まれた寂しい第二王子などではなく。大恋愛の末結婚した両親の可愛い末子として、愛されるに足る容姿で生まれてきたのだ。 俺が不貞の子であっても母上と同じ髪色であったなら。と考えなかった日はない。 そうすればきっと、俺はもちろん、ジェリもこんな思いをすることは無かったのに。 王である父は賢王と言われていた。そして、王族の内輪揉めが貴族の分裂、王家の権威の喪失、ひいては国自体を揺るがすことになるということをよく知っていた。 だからこそ、臣下に何を吹き込まれようと……例えば、母上と他国の黒髪王子との密会の噂を吹き込まれようと……依然とした態度を貫き、公共の場において俺と弟で態度に差をつけるようなことは無かった。 父自身も、血を受け継ぐジェリに継いでほしい気持ちと、事を荒立てることなく俺に継がせようと思う気持ちとで揺れていたように思う。 そして、きっと今でも父は母のことを好きで、だからこそ俺を理由に離縁など突きつけられず、かと言って許すこともできなかったのだろう。 一方母は、子爵の生まれでアヤメのような令嬢だと称されていた。知性的で努力する姿に惚れ込んだ父が猛アタックした末に結婚したと聞いている。 そんな母は自分が不貞をしたという事実を受け入れていなかった。ただ、その王子の帰国直前、彼から勧められた酒を断りきれず記憶がなく朝を迎えた日があり、ちょうど妊娠との時期とも被っていた。自身でも否定しきれぬ不安を抱えていた。 母にとって俺が継承権できないことは、不貞が事実であったという証。継承権を揺るがす火種がないようにと過保護に扱われる度に、悲痛な母の気持ちを思い知らされた。 そんな高位貴族にでさえ知られないように隠した家族の溝は、とても深かったが、それでも歪なまま均衡を保ち、家族として存在していた。 しかしそれはある日、ジェリのお茶会での出会いで崩れていくことになる。 ジェリが惚れたという、レマラック公爵家の三男。 家柄も申し分なく、可愛いのだと照れながら話す弟を見て、俺も母もとても喜んだ。だが父は苦言を呈し、そしてその度に母が不安定になり、ジェラルドが悲しそうな顔をする。 そういう小競り合いのような衝突が続き、謁見の日についに爆発した。 何の考えかあからさまにルドルフに冷たい態度をとる父に、ジェラルドは父に反抗の態度を見せる。 父上に楯突くジェラルドは初めてで、それほどあの子に本気なのだと、そう思った。そして、それでも変わらない父の態度に、普段は押さえつけていた感情が溢れ出して行くのを感じる。気がついたら発言の許可などないまま話し始めていた。 「……ジェリ。陛下はな、ジェリが王位継承するのを望んでるんだよ。……母の不貞の末に生まれた俺ではなく、な?」 ……こんなことは、ジェリだって知っている。 本当に俺が伝えたかったのは、ジェリにでは無くレマラック家の三人にだった。 ……もうこんな家族、第三者にバレて崩れてしまえばいい。 そう自暴自棄で言ったこの言葉。しかし、俺が予想していた結末は、ルドルフのおかげで全く違ったものとなった。 気づきは、至極簡単な事だった。 だが、俺たちではずっと思いつかなかったことだった。 ……俺はちゃんと、父上と母上の子だった。 その事実が、家族の溝を温かい何かで埋めていく。 今は仲良く寄り添う両親を見て、弟は本当にいい人を連れてきてくれたものだ、と頬を緩ませてそう思った。
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