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その後しばらくしてやって来た一人の小柄な童顔の女性。ショートヘアが似合っていて、小さな顔に大きな丸眼鏡を掛けていた。どこか暗い雰囲気が漂うその人が小田原さんだった。
「はじめまして。小田原四葉と言います」
節目がちにそう挨拶をされて、俺も慌てて答えた。
「あ、どうも、水町駿です」
「小田原は霊感凄いらしいんだよ。事故物件なんてもう何件も行ってて、確か除霊みたいなこともやってたよな?」
「……あ、はい。除霊というのは正しいのかどうかわかりませんが、はい、一応、霊と言葉を交わして、その方の念をお聞きすることぐらいは、できると思います」
おどおどとした喋り方で、本当に信用できるのだろうかとも思いながら、他に頼る人もいないわけだから仕方なく俺はみんなを案内して家へと向かった。
飲食店を出て十分ほど歩く。辺りはすっかり暗くなっていて、パラパラと小雨が降っている。俺の気持ちのようにどんよりとしていた。
見えてきたのは五階建てのマンション。
どこにでもある普通の建物のはず。
なのに、その場所に近づいて来ると小田原さんは、「もしかして、あの灰色の建物ですか」と言った。
「え、そうです。なんでわかったんですか?」
「……あのマンションから、嫌な感じ、黒い何かを感じましたので」
俺は二人の先輩の顔を見ながら、マジかよと思っていた。
歩みを進める度に恐怖が募っていく。
はあ、とため息を吐きながら、俺たちはマンションに到着した。
階段を上がっていく。自分の部屋に近づいてくると、気持ちの悪さが高まっていく気がした。
「……一番奥の部屋、ですか」
四階へ到着したとき、彼女はぼそっと声を出す。
「えー、そうです。うわ、もう嫌だな入るの」
当たり前のように俺の住む部屋を当てる彼女の言葉にどんどんと信憑性が高まり、ますます恐怖感が強まっていった。
廊下を歩いていくと、突き当たりから少し奥まったところにある部屋の前で足が止まる。
「ああ、嫌だな入んの」
鍵を出して差し込む。噛み合わせが悪いのか、手が震えているのか、中々鍵が回らない。俺は何度か鍵を出して指で拭った。
「ビビってるわけじゃなくてね、ここの鍵開きにくくて」
俺はみんなに言い訳をしながら、なんとかシリンダーを回した。
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