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真っ黒な廊下が続き、奥に部屋がある。
明かりをつけて部屋にみんなを招き入れた。初めて迎える人たちが、心霊現象を見るために来た人たちだなんて、なんか残念な感じがする。
「おー、綺麗にしてんじゃん」
「事故物件とは思えねーな」
呑気な声が後ろから聞こえてくる。
リビングのドアを開けて八畳ほどの部屋に入ると、各々が部屋の中を見渡す。
「で、小田原はなんか感じる?」
矢形さんの声に、小田原さんはジッと部屋の隅を見続けていた。
指を差す。テレビラックが置いてあるその上部。
「……白い服を着た、女の人の霊が見えます」
「うそ、え、もうマジかよ」
彼女の言葉は俺を奈落に突き落とすように絶望を感じさせた。実際に幽霊がいるとわかると、本当に気持ちが悪い。
「なんでこの部屋にいるのかとか、わかるのか?」
尾野さんの質問に手を出して制したあと、何度も頷く彼女。
「この部屋で昔亡くなった女性のようで、水町さんのことを昔交際していた彼氏だと思っているみたいです」
ゾクッとして、全身に鳥肌が立った。もう嫌だ。
「でも、今は落ち着いているみたいです。静かに見守っていたいと言っています」
俺は小田原さんが言う方へ顔を向けられなかった。一人だと思っていた部屋に別の女性がずっと住み着いていたなんて。考えただけでも恐ろしい。
「……俺、引っ越したばっかだけど、もう別のとこに引っ越そうかな」
そう呟くと、小田原さんが間髪入れずに声を出した。
「それはやめた方がいいと思います」
「え、なんで」
「……以前、同じようなことがありまして、それは男の人の霊が一人暮らしの女性の家にいたんですが、その女性が引っ越しをした場所に男の人の霊がついて来たことがあったんです。結局、私が根気よく説得を続けて霊は消えていったんですが、引っ越しをしたその女性に怒りを感じていたらしく、彼女は引っ越しをしてから何日も熱にうなされたのです」
大きな眼鏡を指で直しながら彼女は語る。引っ越しもできないなんて、じゃあここで暮らし続けろってことかよ。冗談じゃない。
「今ここにいる女の人の霊はさ、危険だとかそういうのはわかるの?」
尾野さんが彼女に問う。
「先ほどもお伝えした通り、気性が荒くなるようなことは今はありません。ただ、彼女の機嫌を損ねるようなことをすると、もしかしたら……」
「いやもう、やめてくださいよ。マジで嫌だ」
俺は力が抜けてその場にへたり込んでしまった。思わず部屋の隅に目をやってしまい、慌てて視線を外す。
「私から提案があるんですが」
「提案?」
「もし、お二人が可能であればでいいんですが、しばらくこの部屋に寝泊まりしてあげてほしいんです。水町さんお一人で生活するのは確かに怖いはずですし」
小田原さんの言葉は俺を救ってくれようとしている気がした。
「この部屋に? うーん、まあ確かにな。どうする?」
矢形さんが尾野さんに尋ねる。
「俺はいいんだけどさ、尾野は彼女と暮らしてるしさ、どう?」
「まあそうだな。毎日じゃ流石にきついけど、一週間に一日とか二日とかなら」
「俺も正直そんな感じかな。いや、水町のことは心配だけど、俺らにも都合あるしなー」
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