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「小田原のことさ、どう?」
矢形さんがビールを飲みながらそんなことを聞いてきた。
時刻は十二時を過ぎていて、明日も学校があるというのに俺たちは眠りに就こうとはしなかった。先輩は、「まあ一日ぐらい寝なくてもいけるけどな」と言ってあくびを一つ。
「どうって、どういう意味ですか?」
「あいつさ、暗いじゃん? なんかちょっと見た目も陰キャっていうか」
「あー、まあ、どうすかね」
「だけどさ、めちゃめちゃいいやつでさ、なんでも一生懸命やるんだよ。今日だって呼んだらすぐ来てくれただろ? 霊感があるからって言ってさ、見ず知らずの男の部屋に普通行くか? いくら俺らの頼みだとはいえ、本当に優しいっていうか、偉いっていうかさ。いい子なんだよな」
先輩は缶ビールを傾けてそんなことを語る。彼は小田原さんに好意を寄せているのだろうか。俺はこの部屋に幽霊がいることを忘れてしまうぐらい、リラックスしていた。
「あ、別に狙ってるわけじゃねーからな。ああいう子よりも、もっと胸のでかい子の方がタイプだしな」
「……聞いてないっす」
「まあそうか」
「小田原さんに霊感があるってなんでわかったんすか?」
その部分はなんとなく気にはなっていた。
最近入ったばかりだと言っていたのに、いきなりそんな話になるだろうか。
「いやさ、俺がなんであいつ呼んだかっていったら、いつだったかな。レジで水町とよく喋ってたのを見た小田原がさ、休憩中に言ってきたんだよ」
「言ってきた? 何を?」
「『あのお客さん、何か黒い影みたいなものが憑いていると思います』って」
「え、俺って霊に取り憑かれてるんすか」
「まあわかんねーけど、あいつには見えたらしい。そっから霊感があるの? って話になってわかったって感じかな。ふぁあああ」
先輩は大きなあくびをして涙を溜めている。
「寝ます?」
「え? いやいや、寝なくても大丈夫だから」
そう言ったすぐあと、彼は机に頬杖をつきながら目をつぶった。
この人はなぜ俺の部屋に泊まったのか、疑問が湧き起こったが起こすのも悪いと思い上着を掛けてあげた。
シャワーは浴びず、歯磨きをして俺も寝ることにする。電気を消す勇気だけがなくて、そのままベットに入った。
部屋の隅に意識を向けたが、気にしなければそのうち忘れる。
眠りに就くとき、フッと小田原さんの顔が頭に浮かんだ。丸くて大きな眼鏡姿が可愛らしくて、また会いたいなと思った。
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