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「どうでした? 霊のいたずらとかはありました?」
矢形さんがここに泊まった次の日である今日、小田原さんは本当に家に来てくれた。
「いや、何も起きなかったです。矢形さんがいてくれたからかもしれないけど」
小田原さんは相変わらず大きな丸眼鏡を掛けている。近くで見ると、結構可愛らしい顔をしていた。
「そうですか。それはよかったですね。今日も何も起きなければいいですが」
夜も更けてきて、もうすぐ今日が終わる。
テレビは付けていない。その場所に幽霊がいると知ってからは、怖くて見ることが出来ていなかった。
「今もいるんですか?」
「いや、今はいません。どこかに行っているのかもしれないですね」
「そうなんだ。ずっと部屋の中にいるものだと思ってたので、常に緊張してた感じはあります。いないんだ、なんかそう思うと安心するな」
俺は久しぶりに安堵してソファに身を預ける。
「そういえば、一つ気になってたことがあって、女の人の霊って俺を彼氏だと思い込んでるんですよね? じゃあ、小田原さんのこと見て嫉妬したりはしないんですか? なんか余計煽るような気がしてちょっとビビってます」
「それは大丈夫だと思います。私とは初めにお話しているので、恋人だとは思っていないみたいです」
「へえ、そうなんだ。なんか凄いっすね。なんでもわかっちゃって、マジで小田原さんがいてくれて助かった。ありがとうございます」
「いえいえ」
その後、なぜか沈黙が漂ってしまい、俺はなんとなく飲み物を冷蔵庫から取り出して手渡した。「ありがとうございます」と軽く言って小動物のように缶ジュースを飲む彼女。
「私、好きな男性アイドルグループがいるんです。追っかけって言うんですかね。彼らのためだったらどこまでも追っかけられるんですよ……急にこんな関係ない話して、すみません」
無言の空気に耐えられなくなったのか、彼女は突然そんなことを話し出した。
「いやいや、そういう話好きですよ。でもなんか、ちょっと意外すね。小田原さんがアイドル好きとか」
「よく言われます」
場をなんとか和まそうとしているのが伝わってきて、俺は彼女の気遣いに思わずドキッとしてしまった。
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