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俺の松音に対する「宣言」を聞き終え。松音は、先ほどの「ゾクッ」とするような笑みではなく。何か、柔らかで温かく感じるような、そんな微笑みを浮かべた。
「……よくわかりましたわ、勇二さん。あなたのその言葉を、胸の奥底にしっかりと、留めておきます。それでは……あなたとは、『これで、お別れ』ということになりますね……」
松音はそう言うと、また「猫背のような姿勢」になって。するするっと髪が短くなり、俺の目の前に「竹乃」が現れた。
「あの、桐原さん……色々、ご迷惑ばかりかけちゃって。ほんとにごめんなさい……。でも、あの、なんていうか……あたし、桐原さんには感謝してるんです。こんなこと言うと、後で松音姉さんに怒られちゃうかもしれないけど。あたし、姉さんのしてることが、どこか不安だったんです。何か姉さん、このまま行きつくところまで行っちゃいそうな、そんな気がしてて……。でも、桐原さんが、それを押し留めてくれた。桐原さんに会えて、ほんとに良かったなって。そう思ってます……」
「竹乃」はそう言って、いつもよりも更に深く、「ぺこり」とお辞儀をした。そして、その背筋が伸びるのと同時に、更に髪が短くなり。気が付くと俺の目の前には、「梅香」が立っていた。
「んーー……こんな状況になって、何を言えばいいかわからないんだけどさ。でも、まあ、そう何もかもが、上手くはいかないんだってことかな。松ねえも、それが身に染みたと思うよ? 桐原さんのおかげでさ。でも、あたしにとっては……その、なんだ。桐原さんが、あたしの『ブラックコーヒーバージン』を奪った相手だってことは、変わらないからね。だから……一生、忘れないよ。絶対に……」
それから、ショートカットの髪が、ゆっくりと伸びていき。背中まで達する長髪になったところで、「松音」は再び、俺に向かって微笑んだ。
「……梅香も言ってましたけど。ここで私が、何を言ったところで。もう、言い訳にしかならない。それは、十分わかっています。でも……」
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