プロローグ

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 それでもまあ、死んだ人間の魂が生きている人間の体に乗り移ったとか、吸血鬼のような種族の争いに巻き込まれたりとか、人をゾンビ化しようという研究を阻止したりとか、目に見えない殺意の塊のような「悪意」と対決したりとか……これらはみな、「実際に、俺が関わって来た案件」なのだが。改めて振り返ってみても、「超常現象専門の探偵」のような言われ方をされるのも、やむを得ないかなとも思う。  西条という知り合いの刑事などは、俺がそういう案件を呼び寄せてるんだと、あらぬ言いがかりをつけてくるくらいだ。だが、前述した「常識はずれな案件」のうちひとつは、その西条から紹介されたものだったので、奴もあまり、一方的に俺を責めるわけにもいかないのだが。  そして、そんな俺のウワサをどこかで聞きつけたのか、胡散臭い依頼を持ち込んでくる奴も、定期的に表れる。そのうち99%はイタズラだとすぐにわかり、丁重にお引き取り願っている。なんせこちらは実際に、「信じられない案件」を何度も経験しているのだ。俺を騙そうとしたりからかおうとして作りあげた、でっち上げの物語(ストーリー)などは、その場で見破ることが出来る。「ホンモノ」の事件は、作り話など到底及ばぬほど陰惨で、驚愕に満ちたものなのだから。  これから紹介する「案件」も、そういった「俺のウワサを聞きつけた者」からの依頼だった。だが、この案件が非常にやっかいだったのは。これまでにないほど奇妙で、誰に話してもとてもすぐには信じてもらえないような、驚きの連続で。しかも俺の心の奥底に、今も深い(くさび)を打ち込んでいる、生涯忘れ得ぬほどの「思い出深い事件」だったからなんだ……。
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