「彼と、彼女たち」の事情

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 俺は一清の、自慢げで誇らしげな「語り」を聞きながら。俺もつくづく、我慢強くなったもんだな……と、再認識していた。もう少し若い頃だったら、「ふざけるな!」と、この場で一清を殴りつけていたかもしれない。  幼い頃から周囲のプレッシャーに苛まれ、多重人格という方法でなんとか自分を救う術を見出した女性に対し。それを利用して、完全に自分本位な「野望」を叶えようとする奴など、依頼人だろうがなんだろうが、許せるものか。そんな、胸の底から湧き上がる怒りを、俺はどうにかギリギリで、抑えこんでいた。 「だから僕は、松音の精神が崩壊するという最悪の事態になったとしても、特に慌てる必要がないわけです。もちろん、それを望んでいるというわけではないですよ? こうして、あなたに『依頼』をしに来ているわけですから。あくまで僕の依頼は、松音が『今まで通り』でいられること。なんだかんだ、松音とは一番付き合いが長いですからね、名家の跡継ぎとして今後の人生を共にする上で、パートナーにするならやっぱり、より『思い入れの大きい』女性の方がいいでしょう?  それが上手くいかず、竹乃か松音がイニシアチブを取ることになっても、大きな差し障りはないかな、ということです。まあ、今日の段階でここまで話すことになるとは、思いもしませんでしたけどね。でも、ここで全部ぶちまけてしまったことで、逆にスッキリしましたよ。そういう意味では、『腕の立つ名探偵』の桐原さんに、お礼を言うべきかな」  そう言って一清は「さて……」と、俺に向かって正面に座り直し。今度は一清の方から、俺の目を見つめながら語り出した。 「今日ここで、全部ぶちまけたところで。改めて、お伺いします。僕の依頼、受けて頂けますか? 報酬は弾みますよ、なんせ僕にはどう転んでも、名家の跡継ぎとなる道が開けてるんですから。もちろん、依頼が成功しなくても。例え、松音が松音でなくなるようなことがあっても、返金を要求したりしませんから、どうぞご安心を……」
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