彼の「新事情」(2)

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 それが証拠に、以前俺と西条が関わることになった「目に見えない悪意と対決した」という案件では、丸腰で「悪意」に向かっていこうとする俺に、西条は「良かったら、持っていくか?」と、自分の拳銃を差し出そうとしたくらいだ。そんなことをしたら、例え事件が解決したとしても、西条自身が重い処分を受ける可能性が高いことをわかった上で、だ。  とまあ、俺と西条はそんな特別な間柄なので、「特例」として色々と俺に教えてくれるというわけだ。そして俺が西条に調べてもらったのは、今回の件で最も「要注意人物」と思われる男、笹川一清についてだった。 「こいつが過去に、何かやらかしてないか。もしくはそういう疑いがかけられたことがあったかどうか、調べてくれると助かる。もし何もなかったら、それでいい。頼んだぞ」 『ああ、ちょっと時間がかかるかもしれないが、やってみるよ。また連絡する』  そこで俺は電話を切り、とりあえず西条からの連絡待ちだな……と、手元の資料を改めて整理することにした。そして意外に早く、それから1時間も経たないうちに、西条から折り返しの電話が来た。 『お前が言っていた、笹川一清。こいつはなかなか、面白そうな奴だぞ』  面白そうな奴、か。やはり一清の奴、何かしでかしてやがったんだな……? 『もう2年以上前になるが、こいつの経営してる店【セレクトショップSaSa】に、覚せい剤売買の疑いがかかったことがあった。で、実際にそういう薬物の売買をしていたことは間違いないんだが、売買には店の商品をネットで取り扱う販売網を使ってたんだ。その販売網はネットを管理している会社に運営を任せていたということで、売買は笹川の預かり知らぬことであり、管理会社が独断で行ったものと判断され、笹川自身は『お咎め無し』という結果になった。  でもまあこれは、疑惑を掛けられた政治家が『全部秘書がやりました、私は一切関わっていません』と言い逃れするようなもんだからな。恐らくもしもの時は、それなりの対価を払うことで、そんな風にネット管理の会社が責任を負うことで話がついてたんじゃないかと、担当部署は睨んでる。担当部署はそれ以来、笹川がいずれ尻尾を出すんじゃないかと、ずっと目を付け続けているようだな』
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