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なるほどな……。道理で「店を譲渡する相手」との交渉が、長引いてるわけだ。恐らく一清はその「販売網」込みで、交渉をしてるんだろう。店本来の売上げはともかく、販売網での「裏の売上げ」の何%かは、譲渡後も自分に回せとかいう条件を付けてる可能性もあるな……。
「わかった、貴重な情報をありがとう。もし何か奴の尻尾を掴むようなことがあったら、すぐ連絡する」
俺は西条に感謝の意を告げ、電話を切ろうとしたが。切る間際に、西条がやや心配そうな口調で、俺に問いかけてきた。
『おい、勇二。今度は、命に関わるようなことにはならないだろうな? お前の腕は信頼しているが、いつもギリギリで助かるとは限らんぞ。まあ、お前のことだから、何を言っても無駄だとは思うが、数少ない友人の1人として、一応な』
最後の「数少ない」はちょっと余計だったが、西条が俺の身を案じてくれていることは間違いなかった。なんせ俺は、「悪意と対決する案件」をどうにか解決に導いた結果、命こそ助かったものの、重傷を負って入院することになったのだ。予想以上に組織としての縛りがキツく、それに耐えられずに刑事を辞め、「一匹狼が性に合うんだ」などとほざいて探偵業を始めた俺にとって。間違いなく、俺のことを心の底から心配し、気にかけてくれる希少ない友人と言える西条の言葉は、俺の胸に刺さった。
「ああ、今のところ今回は、そういう方向性には行かないと思う。安心してくれ。じゃあな」
そう言って電話を切った俺は、西条を安心させようというわけではなく、実際に自分でもそう思っていた。今回もまた、やっかい極まりない案件であることは間違いないが、命に関わるような案件ではないはずだと。まだ、この時は。
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