彼女の「新事情」(1)

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 結局今度は、松音が1人暮らしをしているマンションに、俺が行くという形になった。その方が松音的には都合がいいそうなので、こちらから申し出た面会でもあるし、それならばと先方の都合を優先させたということだ。しかし、松音が生活しているマンションか……俺はあらぬ妄想に耽りそうになり、慌てて資料に目を落とした。  そこで俺は、客観的に見ることで、逆に自分の気持ちが少しも落ち着けばと思い。松音という人物について、改めて考えてみることにした。  まず、この事務所に来た時の、あの「外国映画仕様」の服装だが。竹乃と梅香は、一清から話を聞いてそのまま俺に会いに来たのだろうが、松音だけは、「こちらで調べた情報では」と言っていた。つまりそれは、一清の話だけでなく、「桐原勇二という探偵のことを、自分自身で調べてみた」ということだろう。  それを踏まえて考えると、あの服装は恐らく、俺が「気に入る」と判断して選んだのではないか。元々俺は、松音が脚を組み替えるのを見て、シャロン・ストーン主演の映画を思い出すような、少し古めの映画を好む傾向がある。今のようなCG全盛時代になる前、町中にビデオレンタル店が乱立し始めた頃。俺は無我夢中で、色んな映画を借りまくった。まだネット配信など夢のまた夢のような時代、それは俺にとって宝の宝庫だった。  そんな個人的な趣味趣向ではあるが、俺について少し詳しく検索すれば、見つけることが十分可能な情報だろうと思われた。俺の興味を引くには、あの「外国映画仕様」が、一番いい格好だと松音は考えた。その上で「ダメ押し」として、際どいミニスカートを穿いて、事務イスではなくソファーのひじ置きに腰かけた。そこが一番、「適した場所」だと考えて。  今も俺の脳裡に、その鮮やかな残像が蘇るくらいだから、松音の作戦はほぼ「成功した」と言えるだろう。そして俺は今、松音を助けなければという気持ちになっている。そこまでは松音も望んではいなかっただろうが、これは俺のやるべきことだと信じている。ただでさえ、別人格を生み出すことで「自分であること」を守りながらここまで生き抜いて来たのに、地元に君臨する実家や小悪党の思惑に巻き込まれ、その「自分」を失ってしまいそうな人間を、放ってなどおけるものか。
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