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しかし改めて考えると、松音といま恋人関係にある一清の「過去」について調べ上げ、必要であればそれを松音に伝えなくてはと考えている自分は。傍から見れば、一清に嫉妬しているようなもんじゃないのかとも思えて来た。……嫉妬、か。俺はそこまで、松音に入れ込んでいるのか? ただ純粋に、危機に陥る可能性のある人物を救おうというだけでなく。俺の「個人的想い」が、そうさせているのか……?
どちらにせよ、このままでは松音に危険が及ぶことは間違いない。俺の個人的感情は抜きにして、やるべきことはやり遂げるだけだ。多少強引かもしれないが、俺がそう思い込もうとした時。ふと、「あること」に気付いた。
”竹乃と梅香にも、そんな『いい人』がいるらしいことは、なんとなくわかるんですけどね、確実とは言えない状況でして”
松音は、確かにそう言っていた。それは、本来自分のコントロール下にある「2人の妹」の行動を、松音自身が把握しきれなくなったことの裏付けにもなっている。一清が、松音がコントロールを無くしつつあると気付いて竹乃と梅香に手を出したのか、手を出したことでコントロールが失われ始めたのか。この辺りの時系列ははっきりしないが。恐らく一清のことだ、ある程度の「計画性」を持っていたに違いない。
なんせ「もしもの時」を考えて、店のネット販売を任せている会社に、薬物売買がバレた時は「そちらの全責任という形で手を打つ」と取り決めをしていた男だ。どれだけの「補償」で管理会社を丸め込んだのかは知らないが、刑期が終った時には、一清がまた面倒を見るようなことも条件に含まれていたのだろう。
それで刑期を終えた後は、「前回の反省」を生かし、今度はもっと上手い方法で売買を始めるつもりでいた。だから、野見山家の後継者になる上で手放すことになる店の譲渡条件に、「そのこと」も含めた。まあ、「小悪党」にしては、なかなか知恵の回る奴だと言えるだろう。
自分が竹乃と梅香と付き合うことで、2人の自我が強くなり、松音のコントロールが効かなくなる。そのことにより、「妹2人との関係」も、松音にバレる確率が少なくなる。一清はそう考えたんだろうが……恐らく松音も、「そこまで馬鹿じゃない」だろうな。
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