「彼女」の事情(1)

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「つまり野見山家としては、私たち3姉妹のうち誰かの『配偶者』を、野見山家の跡継ぎとして迎えると。そういうことになったようなんです。家長である私の父親を筆頭に、本家に近しい親族・血族が集まって決めたことなんですけどね。女性である私たち姉妹は、まごうことなき本家の血筋を引く身であるにも関わらず、そういう話し合いでも強い発言権がなく、決められたことに従うしかないんです。  それで、いま現在は私も、そして竹乃も梅香も、結婚はしていませんでして。でも私には、お付き合いしている男性はいます。正式に婚約したわけではありませんが、このままお付き合いを続けて行けば、結婚という形に落ち着くのが、自然な流れになるでしょう。竹乃と梅香にも、そんな『いい人』がいるらしいことは、なんとなくわかるんですけどね、確実とは言えない状況でして。  つまり、私には将来夫となる男性がいるのですが、竹乃と梅香については、それがはっきりしない。本来であれば、長女である私の夫が跡継ぎになることが確実なんですけど、竹乃と梅香に『抜け駆け』をされる可能性もあるんです。当家としては、父親が高齢なこともあり、まだ元気なうち、出来れば存命のうちに、跡継ぎを決めたい。なので、言い方は悪いですけど、一番最初に結婚を表明した、いわば『一番乗り』の配偶者に跡目を継がせることも、十分あり得るんですね。  私が心配しているのは、そこなんです。そこで、桐原さんにお願いしたいのは。竹乃と梅香に、本当に『いい人』がいるのか。もしいるなら、結婚間近のような状態にあるのか。それを、調べて頂きたいんですの」  依頼人である野見山松音が語る、まさに「横溝正史の世界」を彷彿とさせる、旧家にまつわる跡継ぎ問題と。そして松音自身の、ひと昔前の洋画から抜け出してきたかのような見栄えとのギャップに、俺はいささか戸惑っていたが。それに加えて気になっていたのが、松音が話しながら何度か組み替えている、黒く短いスカートからスラリと伸びた、2本の脚だった。  決して「素足」ではなく、スカートとのコーディネートなのか、網目の細かい黒のストッキングを穿いてはいるが。その艶めかしさは、「あえて素肌を見せないことで、逆に色っぽさを強調している」ようにも思えてしまった。
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