「彼女」の事情(1)

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 むかし、シャロン・ストーンという女優が主演をした『氷の微笑』という映画があって、ヒロインが脚を組み替えるセクシーなシーンが話題になったのだが。松音は、それを意識しているのか? と思われるくらい、デスクに座っている俺の視線がちょうど届く位置で、脚を組み替えていた。それは本当に、両足の付け根が見えるか見えないかというギリギリのラインで、今にして思うと、デスク前のイスではなくソファーのひじ置きに座ったのは、それが「狙い」ではないかとすら思えるほどだった。  と、艶めかしい脚が気になりつつも、そこに集中して気が散ってしまうような、情けない状態に陥ることはどうにか避け。俺は松音の話を聞いて浮かんだ疑問点について、聞いてみることにした。 「なるほど、だいたいのお話はわかりました。それでは、依頼をお受けする前に、何点か質問をさせて頂きたいのですが。まず、あなたには現在、お付き合いをしている男性がいて、いずれ結婚する流れであるということでしたが。その男性も、あなたのご実家の事情はご存じなのでしょうか? つまり、あなたと結婚するということは、由緒ある野見山家の跡取りになることでもあると。それは男性も、すでに承知であるということで宜しいでしょうか……?」  俺の質問を聞いて、松音は少し、身を固くしたように感じた。そんな質問をされるとは、思っていなかったのかもしれない。事情を説明した上で、依頼について話せば、俺がそのまま引き受けると思っていたのかもな……。 「……なぜ、そういったことをお聞きになりたいのでしょうか。それは、あなたが私の依頼を受ける上で、関係のあること、必要な質問なのでしょうか?」  そう聞き返してきた松音は、表面上は冷静を装っているが。先ほどまで、少しの間隔を置いて組み代えていた脚を、今は左足の上に右足を乗せる形で、すっかり「固定している」ように見えた。右足を上にしているということは、俺の位置からすると、それだけ「最も注意を引く個所」が見えにくい体勢ということでもある。それはつまり、松音が俺に対して、やや警戒心を抱いた様子だとも言えた。
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