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「はい。これは、私があなたの依頼を引き受ける上で、確認しておくべきことだと思いました。なぜそう思ったかも、ちゃんとご説明します」
俺はそう前置きをして、先ほどした質問の「必要性」について、解説を始めた。
「あなたのお付き合いされている男性が、ご実家の事情を知っているのか、そうでないのか。もしこれから事情を説明するとなると、それを聞いた時点で、男性があなたと結婚することに対して、躊躇する気持ちが起こる可能性があると予想されます。なぜなら、結婚して田舎にあるご実家の跡継ぎとなれば、その男性は今されている仕事や住んでいる家などを、『放棄』する必要が生じるからです。名家の跡継ぎという名目は大いに魅力的ではありますが、これはやはり男性でなくとも、今後の人生を左右するほどの、大きな決断になると思われますので。
そこで、もし仮に今、男性がそういった状況にあるとすれば。あなたに『結婚を予定している男性がいる』という、現時点に於ける妹さんたちに対するアドバンテージも、白紙に戻る可能性があります。ならば私が調べる事項も、妹さんたちに『いい人がいる』『結婚間近である』という情報だけでなく、もう一歩踏み込んだ調査が必要になるかと思います。
妹さんたちにお付き合いしている男性がいるとしたら、ご実家の事情をすでに知っているのか。そしてそれを知った上で、妹さんと結婚する決意をしているのか。そこまで踏み込んだ調査でないと、あなたのご依頼には応えられないのではないかと思いました。それゆえに、依頼を受ける前に、あなたにも『同じ質問』をさせて頂いたというわけです。先ほどの質問の意図が、おわかり頂けましたでしょうか……?」
俺の「解説」を聞き終えた松音は、キセルをくわえ、ふう~……とゆっくり、煙を吐き出すと。それから、こちらもゆっくりと、左足の上にあった右足を降ろし。そして今度は、左足を右足の上に、膝を静かに折り曲げながら、「組み替えた」。松音の俺に対する警戒心は、先ほどの解説で「解けた」のだと、俺は解釈した。
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