bondage

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 仕事帰りだろうか、そのスーツからは少し草臥れた印象を受ける男だ。男はぎこちない足取りで、部屋に入っていった。  部屋には簡素なパイプ椅子が一つ。そして、全身をボンデージで覆った生き身が一体。ちらりと目を遣れば、ボンデージの一部が少し窮屈そうに押し上げられていた。  何も言わずにそっと部屋のドアを閉める。ダイレクトメッセージで必要事項は伝えてあるので、言葉を交わす必要は無い。あとは終了時刻まで好きに過ごしてくれ。  リビングに戻りモニターの電源を入れる。好きにしても良いとはいえ、命に係わる行為は禁止だ。念の為にカメラを回している。  煙草に火を付け、肺にゆっくりと煙を入れる。この瞬間が至福の時だ。部屋で行われる行為を見守りながらの一服は堪らなく良い。  ボンデージはラテックス製である。生き身のサイズに寸分違わず合わせた特注品だ。そのサイズを変えないよう生き身を管理はしているが、人間である以上多少のアップダウンも時には起こる。こまめにサイズを測り、ベストな状態のボンデージを着用させるようにしている。  生き身の性別は男だ。男性用ボンデージには局部に余裕を持たせたデザインも出回っているが、それは使わない。萎縮時のサイズで採寸する。変形すれば我慢するだけの事だ。  全頭マスクは口の部分だけ開いている。大概は口も封じられてしまうのだが、生き身は呼吸を管理されるのに慣れているので問題はない。  ボンデージの背中にはファスナーがある。ドレッシングエイドを塗布し、ラテックスを傷つけないよう注意を払いながら生き身を覆っていく。ファスナーを上げ全頭マスクに連結させ鍵を掛ける。生き身の肌は晒さない。これもDMで伝えてある事項だ。  モニターには、ボンデージ越しの生き身を撫で回す男の姿が映し出されている。パイプ椅子の背に腕を固定された生き身は、艶めかしく腰を揺らす。唯一覗かせる赤い色をした口腔は、男の指を咥えさせられている。全身と口腔を愛撫される感覚だけが、今の生き身にとっての全てだ。恐らく脳は痺れるような快感に溺れている事だろう。  ああ、煙草が美味い。  三本目の煙草が灰になったところで終了時刻になった。リビングを後にし、部屋へと向かう。二回、ノックする。終了の合図だ。  カチャリとドアが開いた。草臥れていた筈の男からは、何か満ち足りたような恍惚感のようなものを感じた。男は恐らくまたやって来るだろう。  部屋の中を見る。生き身に対する男の扱いは非常に品行方正だった。乱れた箇所は見当たらない。時々ボンデージに傷が付く程の行為を残していく者もいるが、今日は部屋の中も生き身にも大きなダメージは無かった。  パイプ椅子に固定した腕の戒めを解くと、だらりとラテックスの抜け殻が床へと崩れ落ちた。防水にもかかわらず局部にシミが広がっている。替え時かもしれない。  ゴロリと生き身を転がし、背中の鍵を外した。ゆっくりとファスナーを下していく。この時間もまた楽しい。ボンデージの中の生き身は、ただひたすら行為の余情を味わっているに違いない、手に取るように分かる。  なぜなら生き身は最愛の男であり、最高のアッサンブラージュだからだ。最愛の男をボンデージという完成された器に詰め込んだ。我ながら素晴らしいアイディアだと思う。    ラテックスの皮を剥ぎ、マスクに手を掛けた。         Fin.  
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