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一行は、ただもくもくと進んだ。   二里ほど歩んだであろうか。歩き飽き始めた頃、先に屋敷が見えた。   主は門前で馬を降りると、馬を置いて、帰るように言いつけてくる。   そして、そのまま、自ら馬を引き屋敷に入ると、ご丁寧にも門の鍵を閉めたのだった。   手慣れた様子に、ここが目的の場所だと、侍女にもわかったが、これでは中の様子が伺えない。   どの様な女なのか、確かめなければならないのに――。   聞けば、主はいつも、人払いするのだという。   先に馬引きの男を帰らせ、翌朝早く一人で屋敷に戻る。   日が昇っている朝ならば、手綱を預ける人間など必要ないという理由で。 「どうする?」 たたずむ侍女に、馬引きの男が、声をかけてきた。 「すぐに、門を開けてちょうだい!」 侍女は強い口調で言い放つ。   馬引きの男は、しぶしぶ塀を乗り越えて、敷地内に忍び込むと門の鍵を開け、扉を開いた。   「なあ……」 照れ笑いながら、侍女の側にやってきた男は、これからのことをいい含む。   その物欲しそうな声は、ぞっとするほど下衆なものだった。   こちらはそれどろではないのだ。     侍女は、さっと身を翻し、門の内へ飛び込み扉を閉めた。 いきなり鼻先で、しかも、鍵までかけられた男は慌て、何事かと叫んだ。 「ご苦労様。これで酒でもお飲みなさい」 侍女は、懐から金子(きんす)の入った巾着を取り出すと、門の向こうへ投げてやる。   馬引きの男が、何か面倒なことを言うかもしれないと、用意しておいたのだ。   金子が効いたのか……。   聞こえていた、侍女への文句は、すぐに消え失せた。 さて。 侍女は、屋敷の敷地をぐるりと見回した。   薄暗くて、よくは伺えないが、母屋と離れが一棟、それに納屋らしきものが見えた。まあ、悪くない屋敷だった。   明かりが漏れる飾り窓が、目に止まる。   おそらく、あこで主人は妾と過ごしているのだろう。   侍女は、部屋から突き出した床縁の下にもぐりこむ。   案の定、窓の向こうから人の話声が聞こえてきた。   笑い声の他に、ふざけて怒鳴りあうような声も混じっている。
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