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「ああ、汚らわしい!」
「……汚らわしい?」
聞こえた言葉に、妻はゆっくり頭をあげた。
「身分が違うだろ。この農婦がっ!」
なお疎ましそうに、夫は言い放った。
「そんな……」
それを承知で、めとったのではないのか。
恨みとも、嘆きともつかぬ蠢きが、妻にの胸をかきむしる。
この家の者と認められるため、我慢してきたのはいったい何のためだったのだろう。
自分のもってきた持参金が、夫の生活にも使われたのに。
それなのに、いつまでも、他人扱いで。
挙げ句……農婦などと……。
妻の体は自然に動き、夫の華奢な首が、その抗議をまともに受けた。
日々の裏方仕事で、鍛えられている体は、柔な暮らししか知らない夫より断然頑丈だった。
そこへ、高ぶる気持ちが加われば、手探り寄せた高坏は、食を盛る盆から凶器へと変わりえた。
「旦那様……さあ、共に休みましょう……。これで、今日から私はあなた様の妻になれるのですね」
少しは、こちらの苦労もわかったろうと、妻は血の海にごろりと転がる夫の体躯を見る。
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