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ベッドタウンと言われているこの街では、夕方になる前の時間はみんな忙しい。
段々と空気が琥珀色に染まり
藍色が夜を支配し始める時間
自転車で塾に向かう学生
車に載って家路を急ぐ主婦
学童からの帰りぶらぶらと歩く小学生
明かりを着ける為に窓を閉める音
近くの公園に集まるカラスの集団の鳴き声
もうすぐ都内から発車する電車は沢山の人を呑み込んで家に届け始める
そのうちに夕飯を作るいい匂いが辺りを漂い始める
どこかの家のキッチンの窓から
皿をカチャカチャと洗う音がする
その前を通り過ぎ、もっと奥にある一軒家の門を開けると階段を上がり、その先の玄関の鍵をあけた。
ドアの向こうの世界
昔から住んでいる自分のうちは落ち着くけど
それでも
じゃり…
鍵を玄関の飾り棚に置く音が響く
自分の動く音だけしか聞こえない今の家は静か過ぎる
ここずっと、いろんな事があった。
去年の冬に志望校のランクを上げてゲームを封印して、吐きそうになるまで毎日勉強し、なんとか入学にこぎつけた途端
ドイツに赴任していた父親が向こうで調子を崩して倒れ、母親も渡独して看護することになった
元々、母親はハーフで親戚もむこうにいたから生活に何の問題もなかった。
単に息子が高校生で引きこもり気味だったから、心配で日本にいただけだ。
それに合わせたかのように姉の就職した会社の配属先が関西になった。
この春から家族が一人、また一人といなくなって行ったのだ。
確かにゲームはし放題だし
家族が口煩くいう事もない
ただ明るい性格の母親と
構いたがる姉がいないのは
家に活気がなくなったようで寂しく感じた。
こんな時は彼女に会いたくなる
まだ出会えない僕の女神に
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