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夢だよね
「んまんまぁー!」
小さい男の子が1人。俺に向かって無邪気に微笑んでいる。涎で口の周りはベタベタ。多分1歳になったばかりだと思う。
クルリと振り返ってヨタヨタと知らない男の方へ向かう。お父さんかな……顔を覗いて見た。
髪は黒く、ワックスでセットしてある。目はタレ目で目元にホクロがある。すごく優しそう。子供を見る目はすごく愛おしそうで、幸せそうだった。彼は子供を抱き上げて俺の方に近づいてきてこう言った。
『産んでくれてありがとう。世界一愛してる。━━━━━蛍』
━━━━━━━━━……ピピピッピピピッ
ガバッと慌てて起き上がる。
「はぁ、はぁ……夢か……びっくりしたぁ……」
少し乱れた呼吸を整える。
「ほたるー!!アンタ何時だと思ってんの?!遅刻するわよー?!」
時計の針は7時半を指していた。
「やっば……!」
急いで制服に着替えてドタドタと階段を転げ落ちるように降りる。
洗面所で顔を洗って寝癖を整える。
「ご飯いらない!」
少女漫画のようにパンを咥えて家を飛び出した。
角でイケメンにぶつかることなく電車に乗り込んだ。
その頃にはパンも食べきっていた。………嘘、ごめんお母さん。パン猫ちゃんにあげちゃった。
「はぁ、はぁ……」
また、乱れた呼吸を整える。朝からドッと疲れた。
『電車が発車します。扉にご注意ください』
プシューッとブレーキエアーが抜ける音がする。
良かったー……何とか間に合った。ふぅ、とため息を着いて扉にもたれかかる。
ゴトンゴトンと音を立てて揺れる電車。ココの窓は川が見えて好き。いつも着くまでぼーっと見てる。
ガコンッ!
電車が大きく揺れて体制が崩れる。
「うわっ?!」
倒れそうになったところを咄嗟に誰かが助けれくれた。
「す、すみません!すぐ退きますね!」
抱きしめられていて、抜け出そうとするけれど抜け出せない。
「……?あの……」
腕を解いてくれる様子がないから見上げて驚愕した。
あ、あ、赤ちゃんのお父さん?!えぇ"ええ"ー……こんなところで会うんだ……。てか、あれ夢だよね?きっとそっくりさんだよね?俺はそう思いたい。
だってあの雰囲気だとあの赤ちゃんは俺が産んだってことになる。
いや、俺男だし。と思ったところでふと思い出した。今朝お母さんが見ていたニュース。急いでいて軽くしか見てなかったけど確かこんなニュースがあった。
『ニュースの時間です。一昨日、男性でも妊娠できる注射薬が開発されました。相場価格は1億7000万円。まだ購入者はおらず、また、開発者は━━━━━━━━……』
って感じだった。うっわぁ……どうしよー…。……もし仮にあの人と結婚するのが本当だったとして赤ちゃんは夢なのかもしれない。だって1億7000万円だよ?絶対無理。誰一人手出し出来ないよ。なんて思いながらじーっと見つめているとポスッと頭に顎を乗せられた。
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