MIXバー

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私の名前は『麗華(れいか)』、東京都内のテレビ局に勤務する27歳独身の女子アナウンサーで、東京都内のアパートで独り暮らしをしている。 私はニュース番組の事件や事故の現場取材を主に担当していて、ニュース番組の放送中に現場から生の声を伝えたりしている。 最近は火事や地震、交通事故の現場に行くことが多いけれど、先日はLGBTに関連する法案が国会に提出されたことに関して、LGBT当事者のインタビューなどをしてニュース番組で報道した。 私はLGBTについてよくわかっていなかったけれど、今回国会でLGBTに関して議論されることになったことをきっかけに、LGBTに関してインターネットなどで調べてみた。 まずLGBTとは、Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)のL、Gay(ゲイ:男性同性愛者)のG、Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)のB、Transgender(トランスジェンダー:心の性と身体の性が一致していない性同一性障害者)のTを意味する。 私自身はごく普通の女子のため、同性愛や両性愛、ましてや心の性と身体の性が一致していないということがどのようなことなのか、正直理解することは難しかった。 でも多くのLGBTの方にインタビューするにつれて、LGBTの方が日本の社会では生きにくい状況に置かれているということは理解できるようになってきた。 私はLGBTについてマスコミで仕事をしている立場の人間として、何とか世の中の人にLGBTの方への理解が進むように何かできないものだろうかと考えていた。 まずはLGBTの方に会って話をしてみたいと考えた私は、『ゲイの街』とか『同性愛者の聖地』と呼ばれている新宿2丁目に行ってみようと考えた。 私は事前に新宿2丁目にあるゲイバーのことをインターネットで調べていて、お店は大きく3種類あることを知った。 『Men Only』という基本はゲイ男性しか入れないお店、『MIXバー』という性別・セクシュアリティ関係なく誰でも入れるお店、『観光バー』というお客さんの大半はノンケ(レズビアンやゲイではない人を指す隠語)の男女のお店があるらしい。 私は普通の女子だから『Men Only』のお店に入るのは当然のことながら無理で、『MIXバー』または『観光バー』のお店に行くことになる。 『観光バー』は本来2丁目で飲むような人ではなく2丁目に観光や体験に来たような人たちが入るお店のようで、ニューハーフや女装した男性、ホスト風の若いイケメンが揃っているお店らしい。 このためゲイの世界を知りたいのなら『観光バー』は比較的入りやすいお店なのだろうと思ったけれど、LGBTの実態を知ることはできないような気がして私が行くなら思い切って『MIXバー』に行ってみるべきだろうと考えた。 ゴールデンウィークが近い4月末の週末金曜日会社を18時30分に帰社した私は1人で夕食を済ませてから新宿2丁目に足を運んだけれど、何しろ初めてのことで少し緊張気味に新宿2丁目に足を踏み入れた。 新宿3丁目より四谷方面のブロックが新宿2丁目で、ここには居酒屋、中華、焼肉、カフェなどの飲食店もあるけれど、やはり夜の新宿2丁目の中心はゲイバーで私は店の数の多さに圧倒された。 辺りを見まわしながら私はインターネットであらかじめ調べておいたお店をスマートフォンでナビして探しながら歩いていた。 私の目当てのお店は仲通りの中心の場所にあり、ビルの2階にある『天使の光』というMIXバーだ。 階段を上って『天使の光』というドアの前に立った私は、とても緊張しながら思い切ってドアを開けた。
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