BAR『かげろう』

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 かげろう――という名にふさわしく、店内も異様に暗かった。  普通の人なら、中まで入るのをためらう雰囲気で充ちていた。  カウンターの他には、テーブル席が三カ所しかない狭い店だった。  そのテーブル席には、キャンドルが1本しかない状態だった。  壁には誰かの絵画が数点、飾ってあったが、とにかく暗いため、どんな絵なのかは不明だった。  その男は入ると、テーブル席を見ながら一考し、カウンター席に着いた。  黒いロングコートを着て、白髪まじりの髪は何故か少し乱れていた。  口の上にはロマンスグレーの髭があり、さらにその上には細いメタルフレームの眼鏡をかけていた。  が、そこにいるマスターも、首から上はソックリだった。
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