BAR『かげろう』

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「これは?」 「忘却……とでも名付けましょうか……」 「面白い名前のカクテルですね……」 「ま、誰にでも失敗はある事です……。と、言ってしまうのは簡単ですが……」 「だけど、現実はそうじゃない……」 「確かに……。ですが、毎日の生活の方が大事です……」 「ま‥‥、そうでしょうけどね……」  男は、しばらくカクテルを見詰めていた。  マスターも、その男を見詰めていた。  男は、意を決したように、 「だいたい僕の人生は、子供の頃に両親が自殺してから、狂ってしまったんですよ‥‥」 「そうでしたか‥‥」 「叔母夫婦に引き取られたんだけど、元々子供が四人いたから酷い扱いを受けましてね‥‥。 だから、たまらず中学生になった時に、家出した‥‥。 それから色んな事をしたんですよ‥‥」 「大変でしたね‥‥」 「あーあ‥‥もしあの頃‥‥子供の頃に戻れて、両親の自殺を止められたらな‥‥なーんてね‥‥。 その時、僕は小学生で、学校にいたから、絶対に無理だった‥‥」 「‥‥」  男は、グラスに入ったグリーンの酒を飲み干した。
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