BAR『かげろう』

6/10

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 男が目を開けると、そこは、男が子供の頃に住んでいた実家の自室だった。 「わーお! 本当に戻ったんだ‥‥。あのマスター、何者だ?」  金曜日の正午前だった。  不気味にシーンとしていた。 「誰もいないのかな‥‥?」  少年に少年に戻った男は、階段を下りていった。  階段の途中から見えるリビングで、両親は何かの準備を黙々としていた。  やがて、少年の目に入ったのは、リビングの奥で天井から下がったロープの輪っかだった。  やがて両親は、その輪っかに首を通しにかかった。  少年は思わず駆けながら、 「パパ、ママ、自殺なんか止めてよー!!」  両親は呆然として、輪っかから離れ、 「あら、一郎‥‥」 「おまえ、なんで今頃、家に‥‥?」 「そんなことより、自殺なんか止めてよ!」  母親は息子を抱き、泣きながら、 「ごめんね一郎‥‥」  父は、しょんぼりと息子を見詰め、 「私が悪いんだ‥‥」 「あなた、どうします?」 「仕方ないよ。もう一度、頑張ってみるしか‥‥」  両親は息子に自殺しないことを明言した。  それを聞いて、少年は笑顔になった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加